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巨人が山口俊のポスティング移籍を認めた裏事情

2019 11/21 06:00楊枝秀基
巨人・山口俊ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

15勝挙げてリーグ優勝に貢献

時代が確実に動いているのか―。かつてはFA移籍はもちろん、代理人交渉すら強硬に認めなかった巨人がポスティングでの米移籍を容認。11月18日、巨人・山口俊投手(32)が都内で会見を行いポスティングシステム(入札制度)を利用した大リーグ移籍を球団から容認されたと発表した。

DeNAからFA移籍して3年目の今季、山口は26試合に登板し15勝4敗、防御率2.91、勝率.789、188奪三振で最多勝、最高勝率、最多奪三振の三冠を達成。巨人の5年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。クライマックスシリーズ、日本シリーズでも初戦の先発を任され、まさに大黒柱としてフル回転した。

DeNA時代から「夢はある。チャンスがあるなら挑戦したい」と公言していたメジャー挑戦。今季の活躍が自信になったのか、意欲が高まり球団に申し入れるに至った模様だ。過去に例がないことから、巨人球団首脳は慎重に検討。山口が出場していた「プレミア12」の全日程終了に合わせて容認を発表した流れだ。

代理人すら認めなかった巨人が…

球団への貢献度を認め「特例」としてポスティングでの移籍を容認。表面上はそう見えるはずだ。だが、事情はそう単純ではない。巨人はこれまでポスティングを一切認めてこなかった。さらに、ポスティング申請した先には必然的に必要になる代理人すら認めてこなかった歴史的事実がある。

今季途中で現役を引退した元エース・上原浩治氏は、2003年オフの契約更改で弁護士同席で会見に臨み、球団史上初とされる代理人交渉を行った。だが、この際に当時の三山球団代表は「弁護士会登録番号などを文書で通知する行為がなされていない。代理人の手続きに瑕疵(かし)があったので、代理人交渉ではない」と否定。その後の労組選手会(当時、ヤクルト・古田会長)でも議題に上がり「代理人交渉と認めるべき」とされた。誰がどう見ても代理人交渉だったが、強引な言い訳を巨人は曲げることはなかった。

さらに、FA権取得前の上原氏が2004年オフ、ポスティングでのメジャー移籍を直訴した際、球団側は断固拒否。意見の衝突は毎年のように繰り返され、09年にようやく海外FA権を行使して海を渡った。

今季の活躍を予想していなかった?

では、今回の山口の件ではどうだったのか。編成トップも兼ねる原監督は、11月になって「選手にもあれだけ頑張ったから希望が通ったんだという『特例』は僕はあってもいいと思う。かたくなにポスティングはダメ、ウチはしないというのもおかしな話」と言及。従来のポスティングNGの鉄則を変える可能性をほのめかしていた。

それだけではない。球界関係者の証言によると「山口がFAで巨人入りする際、ポスティングを容認するサイドレターの存在があったと聞いている。移籍1年目に飲酒でのトラブルを起こしたとき、この条件を見直すチャンスもあったが、後の祭り。好成績を残し、球団上層部に承認されている以上、容認せざるをえない状況だったのでしょう」とのこと。今季、これだけの活躍をされるとは予想できていなかったということになる。

今季、5年ぶりのリーグ優勝を飾った巨人。だが、日本シリーズではソフトバンクに力の差を見せ付けられた。さらなる戦力補強へ乗り出す必要があるのだが、全権監督の原監督にも苦悩が募る。

FA戦略では楽天・美馬とロッテ・鈴木大地の獲得に乗り出したが、共に入団に至らず7年ぶりのFA補強なし。外国人選手も大量離脱で一からの補強を進めなければならない。そこに、チームの支柱だった阿部慎之助も引退となれば頭も痛い。おまけに山口の海外流出と続く事態に、リーグ連覇を目指す巨人の前途は険しいというほかない。