扇の要・嶋基宏を獲得へ
2019年シーズン限りで楽天を退団した嶋基宏が、ヤクルトへ入団する。球団創設間もない頃からチームの象徴として、また正捕手としてチームを引っ張ってきた嶋だが、2019年シーズンは故障もあり、出場試合数がプロ入り後ワーストの57試合にとどまった。
チームは若返りを図りたい方針があるため、嶋に対して野球協約の減額制限を超える大幅な減俸を提示。嶋はこれを受け入れず退団を選択し、新天地を探していた。そのなかでヤクルトがいち早く手を挙げ、獲得にこぎつけた格好だ。
ヤクルトの捕手事情を見ると、中村悠平を中心に松本直樹、古賀優大らが争っている。しかし、中村はこのオフに右肘の手術を行ったばかり。順調にリハビリは進んでおり、春季キャンプへの参加は問題なさそうだが、それでもやはり不安は残る。また、松本と古賀は一軍での実戦経験が少ない。ここに嶋が入れば安心感は大きいはずだ。
また、ヤクルトは野村克也元監督時代から「再生工場」として多くの選手達を復活させてきたのも心強い。
不動のレギュラー坂口智隆が復活
1990年代、野村監督は小早川毅彦氏、辻発彦(現・西武監督)など、他球団での成績が奮わなくなってきた選手を獲得し、見事に再生してきた。
その伝統が再び脚光を浴びている。その先駆けとなったのが坂口智隆である。
2015年シーズンオフ、坂口は今回の嶋と同じようにオリックスから減額制限を超える年俸の提示を受け退団を決意した。退団前の2015年シーズンは打率.262の成績を残したが、故障の影響もあり、36試合の出場。また、その前2年はともに打率.230前後にとどまっていた。
しかし、ヤクルトでは移籍から3年連続で打率3割前後をキープし、レギュラーとして復活した。また、チーム事情で本来の外野だけでなく、一塁の守備にもつくマルチプレーヤーぶりも発揮し、攻守に渡って存在感を示している。
人気面も抜群である。レディースデイ前に行われた『スワローズイケメン大総選挙』において2年連続で2位を獲得。生え抜き選手ではないにもかかわらず、この人気には驚く。
自由契約から4年。実力でその地位を不動のものとしたのだ。
一発が魅力の代打、守備・走塁に長けた選手も
ヤクルトが再生させた選手は坂口だけではない。坂口と同じ2016年シーズンからチームに加わった鵜久森淳志(前日本ハム)もヤクルトで開花した。一発のある右の代打としてチームに貢献。移籍2年目の2017年4月には、史上初となる開幕カードでの代打サヨナラ満塁本塁打を記録し、歴史に名を残した。翌2018年で戦力外となってしまったが、3年間で多くのヤクルトファンの心をつかんだ。
2016年シーズンオフに加わった大松尚逸(前ロッテ)も戦力外からの復活組だ。ロッテ最終年はアキレス腱断裂により一軍での出番はなかったが、ヤクルトに移籍した2017年は94試合に出場。
10点差をひっくり返した7月26日の中日戦では、延長10回にサヨナラ本塁打を放ちホームベース付近で待ち受ける歓喜の輪に飛び込んだ。翌年のオフに戦力外となり退団したが、ルートインBCリーグでのプレーを経て、2020年シーズンにはコーチとしてヤクルトへ復帰。立場を変えてチームを支えていく。
2017年シーズンオフには田代将太郎(前西武)が加入した。田代は坂口のように前チームでレギュラーとして活躍していたわけではなく、鵜久森や大松のように一発が魅力の選手でもない。しかし、試合終盤の守備・走塁要員として移籍初年度からキャリアハイとなる73試合に出場し、チームに貢献した。
このように近年のヤクルトは、1990年代と同じように不動のレギュラーとして選手を再生させたり、以前とは異なる一発が魅力の代打、守備走塁面が得意な控え的存在を再生させている。
嶋はリーダーシップに優れた守りの要だ。近年、ヤクルトが獲得してきた自由契約や戦力外となった選手の中にはいないタイプである。どのように再生していくのか楽しみである。
※数字は2019年シーズン終了時点