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該当者なしだった沢村賞 壁は「10完投」と「200イニング」

2019 10/30 06:00本松俊之
選から漏れた巨人・山口俊ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

容易ではない7つの基準条件

沢村英治賞(沢村賞)の選考委員会が10月21日に開かれたが、2000年以来19年ぶりに該当者なしとなり大きな話題となった。

沢村賞は、読売新聞が1947年に制定したもので、選考委員会の審議により最も好成績をあげた「先発完投型」の投手に贈る賞だ。沢村栄治はプロ野球草創期に活躍、来日したMLBの選抜チーム相手に好投し、野球ファンを熱狂させ、史上初のノーヒットノーランなど数々の記録を樹立した。 沢村賞の選考には以下の7つの基準がある。

山口・有原とジョンソンの比較ⒸSPAIA

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2019年のシーズンで7つの基準をもっとも数多くクリアしたのは山口俊(巨人)と有原航平(日本ハム)の4だった。

ジョンソン(広島)が2016年に同じく4つの基準をクリアして受賞したが、山口、有原と比較すると完投数と投球回の違いが受賞できたかどうかを分けたようだ。

沢村賞の選考基準ⒸSPAIA

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今回の「該当者なし」について、投手の分業化が進む中で、基準そのものを疑問視する声が上がっているが、あらためて過去10年の沢村賞を受賞した投手を振り返ってみよう。

過去10年の沢村賞投手と4条件以上達成者数ⒸSPAIA

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ジョンソンを除くと、いずれの受賞者も5つ以上の基準を満たしている。また前田健太(ドジャース=当時は広島)と田中将大(ヤンキース=当時は楽天)、そして菅野智之(巨人)がそれぞれ2度ずつ受賞。2011年の田中と2018年の菅野は堂々の全基準クリアだ。

基準を4つ以上達成した投手の数を見ても、いかにそのハードルが高いかがわかる。4つの基準をクリアした投手ですら20人に過ぎない。また、7つの基準全てをクリアした投手にいたっては、わずか4人だ。

全基準をクリアした田中とダルビッシュの争い

選ばれた投手だけに与えられるといっていい沢村賞だが、この10年間にもいくつかのドラマがあった。

過去10年の主な沢村賞争いⒸSPAIA

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2011年は、田中とダルビッシュ有(カブス=当時は日本ハム)の高いレベルでの争いとなった。ダルビッシュは2007年に沢村賞を受賞しているが、2011年も圧巻のピッチングで7つの基準を全てクリアした。しかし、田中は同様に全てをクリアしただけでなく、奪三振以外の成績がダルビッシュを上回ったのだ。どちらも7項目全てを満たす高いレベルの争いとなったが、田中が初の沢村賞を獲得した。

2013年は、7つ全ての基準をクリアした金子弌大(日本ハム=当時はオリックス、登録名は千尋)だったが、6つクリアの田中が受賞した。田中はプロ野球記録となる開幕から無敗の24連勝を達成し、楽天初のパ・リーグ制覇、さらには日本一に大きく貢献したからだ。金子の奮闘も超人的な田中の活躍には及ばなかった。田中はこれが2度目の受賞で、その次の年にニューヨークへ戦いの場を移すことになった。

2017年は菅野智之(巨人)と、菊池雄星(マリナーズ=当時は西武)がそれぞれ5つの基準をクリアした。しかもクリアした基準の項目は全く同じ。菊池が奪三振で大きく水をあけたが、勝率と防御率の差が明暗を分け、菅野の初受賞となった。

2018年は菅野が圧巻の連続受賞を果たした。7つの基準を全て満たした菅野の前には、セ・リーグ3連覇の立役者となった大瀬良大地(広島)も及ばなかった。

パは千賀らの2完投が最高

この10年間を見てみると、大きな壁となるのが完投数と投球回数だ。4つ以上の基準超えをした投手のうち、10完投を果たしたのは、セ・リーグでは2018年の菅野、パ・リーグでは2013年の金子、2011年の田中、ダルビッシュの4人だけだ。 また、投球回が200を超えたのも、のべ8人にすぎない。

2019年シーズンに限ると、完投勝利はパでは千賀らの2が最高だ。セ・リーグでは大瀬良が6、今永と菅野が3試合で完投しているが、基準となる10には遠く及ばない。

投球回数もパでは千賀の180.1回が、セでは大野雄大(中日)の177.2回が最大で、基準である200回を超えるのは容易ではない。

中6日をあけて1試合あたり100球前後が投手交代のタイミングとなる現在のプロ野球では、年間143試合(2019年のレギュレーション)のうち先発投手が登板するのは20試合強で、それぞれの試合で7回を投げきったとしても160回前後にとどまってしまう。

ちなみに第1回(1947年)の沢村賞受賞者は別所毅彦(当時の登録名は昭、所属は南海)。その成績は、下記の表の通りだ。時代が違うといえばそれまでだが、完投数、投球回数とも驚きの数字だ。

1947年の別所投手の成績ⒸSPAIA

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その後、巨人に移籍した別所の生涯成績は、310勝178敗(5位)、勝率.635(7位)、完投335試合(4位)、防御率は2.18。79年に野球殿堂入りした昭和を代表する大投手だった。

投手の起用法が大きく変化していく中で、別所の記録に並ぶことは望むべくもないが、歴史を刻んできた沢村賞の今後の選考が注目される。