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ラッキーゾーン新設の損得勘定、見え隠れする球団の「計算」

2019 10/29 06:00カワサキマサシ
ヤフオクドームⒸMADSOLAR/Shutterstock.com
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ⒸMADSOLAR/Shutterstock.com

ナゴヤドームに「ホームランテラス」構想

ナゴヤドームに早ければ2021年シーズンから、「ホームランテラス」を新設する計画が持ち上がっているとの報道があった。現時点でナゴヤドーム、中日球団とも発表していないが、最近の日本球界は本来の外野フェンスの前に新たにフェンスを設ける、いわゆるラッキーゾーンを設置して球場を狭くする施策がトレンドになっている。

近年のラッキーゾーン設置の先駆けとなったのは楽天。2013年に本拠地球場に「Eウイング」を設置し、両翼、左・右中間の最深部とも1mほど縮小。シーズンを通じてのチーム本塁打は、前年から大きく増加した。ただしこれには、ラッキーゾーン設置とは別の要因も加わる。

日本プロ野球界は2011年から、反発力を抑えた統一球を導入。2010年はパ・リーグ全体で年間742本あった本塁打が2011年は454本、2012年は427本と大幅に減少した。

現場やファンから不満が噴出しながらも、NPB側は2013年も同一基準のボールを使用するとしていたが、2013年6月に少し飛びやすくなるように仕様を変更していたことが発覚。結果的にその年のパ・リーグの年間本塁打数は597本と、前年から170本増の数字を記録した。

2013年は楽天が創設9年目にして、初のリーグ優勝と日本一を成し遂げた年である。その最大の要因は、田中将大が開幕から無傷の24連勝と驚異的な活躍を見せたことには違いない。

しかし前年は松井稼頭央と牧田明久の9本が最高だった本塁打が、この年に加わったマギーがリーグ2位タイの28本、同じく新外国人のジョーンズは同5位の26本と打線の軸となって奮闘。チーム本塁打は前年の52本から97本へと45本増加した。楽天の増加分の本塁打数は、リーグ全体での増加分である170本のうち26%を占める。外国籍選手がハマったことはもちろんだが、統一球の仕様変更と、ラッキーゾーン効果もあったといえるだろう。

ラッキーゾーンⒸSPAIA

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ソフトバンク、ロッテも本塁打増加

楽天の「Eウイング」よりさらにインパクトがあったのが、ソフトバンクが2015年に本拠地ヤフオクドームに設置した「ホームランテラス」だ。それまでは両翼100m、中堅122m、左右中間118mの広さに加え、高さ5.84mものフェンスが本塁打を阻んできた。

しかし「ホームランテラス」が設置されたことで、本塁からの距離は最大で約6m短縮され、フェンスも東京ドームと同程度の4.20mまで下げられた。この効果はてきめんに表れ、ソフトバンクの年間チーム本塁打は、前年の95本から141本へと46本も増加。前年は李大浩の19本が最多だったのに対して松田宣浩35本、柳田悠岐34本、李大浩31本と30発トリオが誕生し、2年連続のリーグ優勝を飾る。2018年には、202本の大台も記録した。

本塁打数ⒸSPAIA

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そして今シーズンはロッテが、本拠地ZOZOマリンスタジアムに「ホームランラグーン」を新設。本塁からの距離は最大で約4m短くなり、外野フェンスも従来の高さから下げられた。

これも効果は如実に表れ、2011年以降チーム本塁打が2桁止まりで、昨季も78本とパ・リーグで唯一3桁に届かなかった打線は今季、倍増となる158本塁打を放つ。2018年の2桁本塁打は24本の井上晴哉のみだったが、今季は新加入のレアードが32本、井上24本をはじめ7人が2桁本塁打を記録するなど、打線の迫力が増した。

投手陣が成長すれば総失点は減少

本拠地球場を狭くすれば自チームに本塁打が増えるメリットがある一方で、相手に本塁打を打たれるリスクも高まる。実際に楽天は年間の総失点が「Eウイング」設置前年は467だったのに、設置した2013年は537に増えている。

ところが、興味深いのはソフトバンク。年間総失点が「ホームランテラス」設置前年の522から設置した2015年は491と減少し、以降2016、2017年と400点台に抑えた。

2014年は規定投球回数に達したのはスタンリッジと中田賢一のみだったが、武田翔太、千賀滉大ら、当時20代前半の若手投手に本格化の兆しが見られていた。実際に武田は、2015年に初の規定投球回数に達して13勝をマーク。千賀は2014年に発症した右肩痛の影響で2015年の公式戦登板は4試合にとどまったが、日本シリーズでは救援として活躍。2016年から今季まで、4年連続で2ケタ勝利を達成し、投手陣の軸となっている。

総失点SP_1910_G473_3

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ロッテも「ホームランラグーン」設置前年の2018年628から、今季は611とわずかながら失点を減らしている。2018年の規定投球回数達成者は涌井秀章のみで、今季は誰もいないが、今季8勝をあげた種市篤暉、同じく7勝の二木康太ら、20代前半の若手投手に本格化の兆しが窺える。さらには今季はケガに泣いたが、2016年の外れドラフト1位で史上最多の5球団が競合した佐々木千隼も控えている。

逆に1991年のシーズン終了後に甲子園のラッキーゾーンを撤去した阪神は、本塁打数は前年の111本から86本に減少したものの、チーム防御率が4.37から2.90と飛躍的にアップ。本塁打を打たれるリスクが減り、積極的に打者の内角を攻めた仲田幸司がキャリアハイの14勝をマーク、ヤクルトと最後まで優勝を争う原動力となった。

石川1位指名はラッキーゾーン新設を見据えて?

ラッキーゾーン設置は野球の華である本塁打を増やし、なおかつラッキーゾーン内に客席を設けて興業面の繁栄を図ることができる。だが、その裏には勝つためのしたたかな計算も潜んでいるように思える。ソフトバンク、ロッテとも、球場を狭くしても守り切れる投手力の底上げが図れる計算があったゆえ、ラッキーゾーンの設置に踏み切ったとも推察できるからだ。

穿った見方かもしれないが、そこに今季の中日のドラフトの意図が透けて見える。ナゴヤドームはホームから外野フェンスまでの距離が両翼100メートル、中堅122メートルとプロ野球の本拠地球場として最大級のサイズを持ち、外野フェンスも高くて最もホームランが出にくい球場である。そこを本拠地とする中日は今年のドラフトで、大方の予想を覆して投手の奥川恭伸ではなく、東邦高の石川昴弥を1位で指名した。

石川は3年春に投手としてセンバツ優勝を果たした一方で、高校通算55本塁打を放った打撃が高く評価されている。石川1位指名の意図には、2021年のラッキーゾーン設置を見据えて、2018年のドラフト1位・根尾昴と近い将来クリーンアップを組む構想があってのものだったのかもしれない。