初の規定打席到達で堂々たる成績
今季、プロ入り10年目にして初の規定打席に到達したロッテの荻野貴司。これまで毎年のように期待されながら、度重なる怪我に泣かされてきた男が大きな壁を乗り越えた。
昨季は不動のリードオフマンとして開幕から打線を引っぱり、シーズンを通しての出場が現実味を帯びたかのように見えた。ところが、7月の西武戦で右手の指を骨折。長期離脱を余儀なくされ、そのままシーズンを終えた。
再起が期待された今季はオープン戦で17打数1安打と低迷し、開幕スタメンを外れる苦難のスタートとなったが、交流戦から夏場にかけて20試合連続安打をマークし、一時は首位打者に。オールスターにも初出場を果たし、大きな怪我なく前半戦を終えた。
後半戦は、9月2日に腰痛で出場選手登録を抹消されるも、13日の西武戦で復帰すると尻上がりに調子を上げ、終わってみれば打率.315(リーグ3位)、10本塁打、28盗塁(リーグ4位)の好成績を残した。荻野がシーズンを通して出場すれば、どれほどの成績を挙げるのかと毎年注目されていたが、.315というアベレージは首脳陣やファンの期待に十分に応えてくれるものだった。
昨季は7月に荻野が離脱した穴を埋めるべく、日本ハムから岡大海をトレードで獲得したが、シーズン終了まで抜けた穴は大きかった。その荻野が今季は終わりまで1番打者として打線に名を連ね、最後の最後までチームはAクラスを争った。やはり、ロッテというチームにおいて、荻野が1番にいるのといないのとでは相手に与える脅威が違う。いなければ全く違うチームになってしまうと言っても過言ではないほどの貴重なプレーヤーなのだ。
苦手を作らない高い技術とセンス
今季の荻野は各項目で優秀な成績をおさめたが、中でもリーグ3位の得点圏打率.347が示すように勝負強さが際立った。出塁率も.371とチャンスメーカーとしての役割を果たしながら、時には走者を帰すポイントゲッターとしても機能した。
苦手なチームがないことも大きい。対戦チーム別の打率をみると、対西武戦の.320を筆頭に、対ソフトバンク戦は.318、対楽天戦は.307、対日本ハム戦は.286、対オリックス戦は.297と、どのチーム相手にも高打率を残している。対右投手の打率は.318、対左投手の打率は.305と投手の左右も苦にしておらず、いかなるチーム、いかなる投手が相手でも、常に1番に置いておきたい打者だ。
また、今季特に目を引いたのが、右方向への鋭い打球が増えたことだ。元々右打ちには定評があり昨季も右方向の打率は.317と良かったが、今季は.405とさらに上昇。内外角の力のある直球や鋭い変化球に見事に合わせ、ライト前へ運ぶシーンを幾度となく目にした。
プロ入り1年目、荻野は開幕スタメンに抜擢されると、46試合の出場ながら打率.326、25盗塁をマークするなど凄まじいインパクトを残した。今季、荻野は初めて規定打席に到達し、シーズンを通してどのくらいの成績が残せるのかを示したが、怪我がなければ3割30盗塁は荻野にとって難しい数字ではないのかもしれない。それぐらいの打撃の技術とセンスを1年間通して見せてくれた。
今季芽生えた自信で、来季はさらなる飛躍を
今季、荻野は出場選手登録日数が7年に到達し、国内フリーエージェント(FA)権を取得した。補償の必要がないCランクとみられ、荻野がFA権を行使すれば、手を挙げるチームが出てくることも考えられた。だが、権利を行使せず残留する見通しと報じられており、ロッテファンにとっては一安心だろう。
10月21日で34歳となりベテランと呼ばれる域に入るが、今季キャリアハイの成績を残したように走攻守で高いレベルを維持している。入団当時の爆発的な脚力は多少衰えたかもしれないが、いまだ球界屈指である脚力と積極的で確率の高い打撃が相手チームに与える脅威は計り知れない。
今のロッテの1番打者は荻野以外には考えられない。藤原恭大ら将来の1番候補は2軍で武者修行中のため時期尚早。荻野が抜ければ抜本的にチーム構成を考え直さなければいけないほどの大きな存在だ。チーム盗塁数が減少するなど今季は影を潜めたが、井口資仁監督が就任時から掲げる走塁革命も、荻野なくしては語れない。
「1年間やれたなというものがほしい」とかねてから語っていた荻野。今季、初めて規定打席に到達し、これまでとは違う次元で自信が芽生えたはずだ。その自信が来季の荻野のパフォーマンスをさらに向上させることにつながるかもしれない。フルシーズンを戦い抜いて一皮むけた荻野が、来季もZOZOマリンで躍動する姿を多くのファンが期待している。