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オリックス・山本由伸が高卒3年目でタイトルを獲れた理由

2019 10/9 11:00カワサキマサシ
最優秀防御率のタイトルを獲得した山本由伸ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

1.95で最優秀防御率に輝く

オリックスの山本由伸が、初の最優秀防御率のタイトルを獲得した。山本は岡山県出身だが、宮崎県の都城高に進学。甲子園出場経験はないものの、150km超のストレートがプロの注目を集め、2016年ドラフト4位で入団した。プロ3年目の若手投手だ。

1年目の8月20日に先発で一軍デビューを飾ると、同31日に早くも初勝利をマーク。この年は計5試合に登板し、起用はすべて先発だった。2年目は開幕こそ二軍で迎えたが、4月末に一軍に昇格するとリリーフとして重用され、すべて救援で54試合に登板。4勝2敗1セーブ32ホールドの好成績を収めた。

そして、3年目の今年。オリックスはエース格の金子弌大、西勇輝が相次いで移籍し、投手陣の崩壊が懸念された。しかし、山本は13勝をあげた山岡泰輔とともに先発のマウンドを守り抜く。夏場に左脇腹を痛めて1ヶ月ほど戦線を離れたが、シーズン通算20登板で8勝6敗。防御率1.95で、最優秀防御率のタイトルを手にした。

山本由伸成績ⒸSPAIA

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オリックスのチーム637失点、防御率4.05は、いずれも西武に次ぐリーグワースト5位。弱投のチームにあって、12球団唯一の防御率1点台で手にしたタイトルは大きな価値がある。

セイバーメトリクスの指標も上位を示す

では各種データから、山本が防御率のタイトルを手にできた理由と、投手としての特徴を見ていこう。

投球回が規定投球回数ギリギリの143と少ないため、絶対数では分かりにくいが、セイバーメトリクスの指標ではリーグ上位の高い値を示している項目が多い。中でも出色であり、防御率のタイトルに直結しているのが「BB/9(リーグ3位)」「WHIP(同2位)」「HR/9(同1位)」の3項目だ。

山本セイバーⒸSPAIA

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9イニングあたりの与四球率を表すBB/9は、平均である3.00前後を下回る2.266。1イニングあたり何人の出塁を許したかを表すWHIPは、素晴らしいと評価される1.00以下の0.958。そして1試合で打たれる本塁打数を表すHR/9は、0.503だった。

つまり平均すれば、9イニングを投げて四球数は2つほどで、1イニングに1人のランナーを出すか、出さないか。さらに、打たれる本塁打は2試合に1本程度。相手にとっては塁上にランナーを出せない上に、本塁打も期待できないのであれば、得点機は限りなく少なくなる。山本の失点する要因が少ないことが、セイバーメトリクスの数字に表れており、最優秀防御率を裏付けている。

ウイニングショットは高速カットボール

以下はSPAIAが独自に集積したデータをもとに検証を進める。山本の投球の軸となるのは今季最速155km、平均で148.55kmを記録したストレート。三振または凡打でアウトを取った球種はストレートが最も多い。それに加えてカットボール、フォークボール、シュート、カーブ、スライダーと多彩な変化球を持ち合わせている。

変化球のウイニングショットのひとつは、平均球速143.53kmと、ストレートと5kmほどしか差がないカットボール。対戦した打者たちはストレートだと思ってバットを振るが、手元で小さく変化した球は芯を外し、凡打の山を築いた。山本と対戦した打者の多くが、自らが放った鈍い当たりを目にして、苦い思いをしただろう。

9イニングあたりの奪三振率=K/9は、7.993でリーグ4位。K/9は平均が7.00前後とされ、昨季もそれを越えているが、完投しても奪三振は約8個なので、バッタバッタと三振を獲るタイプではない。三振を奪った結果球で、最も多いのはフォークボール。三振がほしい場面で狙って取れる、本人にとって信頼度の高い球種なのだろう。

山本ランクⒸSPAIA

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カーブで緩急、シュートも有効活用

意外なのは、カーブでアウトを奪っていること。山本のカーブの平均球速は120.36km。2ストライクに追い込まれた打者が次に148.55kmのストレート、あるいは143.53kmのカットボールを狙っている裏をかき、ストレートと約30kmの球速差があるカーブを効果的に使うあたり、押し一辺倒ではなく、投球術に長けていることが分かる。

そして、昨オフから取り組んできた、平均球速143.39kmのシュートも投球の幅を広げた。フォークボールを除けば、山本の持ち球はカットボール、スライダー、カーブと、いずれも右打者にとっては外に逃げていく球。それだけなら打者は思い切って踏み込めるが、自分に向かってくる球種があることを知らされると、自ずと踏み込みは甘くなり、打席内での迷いも生じる。

山本のシュートは右打者を惑わせ、踏み込ませない抑止力として、小さくない効果を発揮しているのだろう。結果球としての割合は少ないが、それ以上に組み立ての過程で効いているはずだ。

山本は昨シーズンの終盤に故障で戦線離脱した。3年目の今季は前述した左脇腹の故障で、約1カ月間も登録を抹消された。来季以降に求められるのは、投手としてのレベルアップはもちろん、故障なく1年を通じて戦える身体作り。それができればスケールの大きな投手として大成し、1996年を最後にリーグ優勝から遠ざかるオリックスの救世主になれるはずだ。球団には目先の結果やチームの台所事情に関係なく、大きく育ててもらいたい。