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イチローも称賛 楽天・岸孝之の直球がプレミア12でうなりを上げる

2019 10/15 06:00浜田哲男
2019_楽天_岸孝之投手ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

シーズン序盤は不振も終盤に復調

今季は開幕戦で左太ももを痛めて長期間戦列を離れ、3勝5敗、防御率3.56と不完全燃焼でシーズンを終えた楽天の岸孝之。クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージでも第3戦に先発して敗れたが、まだ仕事は残っている。11月に開催される第2回プレミア12に出場する日本代表・侍ジャパンのメンバーに選出されているからだ。

昨季は11勝4敗、防御率2.72の好成績を残し、最優秀防御率のタイトルも獲得。昨年11月に開催された日米野球のメンバーに選出されると初戦に登板し、強打者のモリーナ(カージナルス)から得意のカーブで空振りの三振を奪うなど5回途中4安打3失点とまずまずの投球を見せた。

中でも糸を引くような伸びのある直球で2者連続の三振を奪ったシーンは圧巻だった。今季不調にあえぎながらも再び日本代表に招集されたのは、稲葉篤紀監督がその実力を高く評価しているからにほかならない。

今季の岸は開幕戦で負傷したり、夏場に高熱を出して入院したりと度重なるコンディション不良に見舞われた。復帰してからも5連敗を喫するなど、らしくない投球が続いた。それでも、9月16日のオリックス戦で7回を4安打2失点に抑え久々の白星を挙げると、9月23日の西武戦でも強力打線を相手に7回途中2失点の好投。白星はつかずチームも敗れたが、シーズン後半に状態が上向きになってきたのは明るい材料だ。

直球のキレと精度は健在

岸といえば、伸びのある直球と落差のある大きなカーブ、キレ味抜群のチェンジアップを武器としているが、何よりも大きな強みが、あらゆる球種で簡単にストライクが取れる制球力だ。ストライクぎりぎりのコースに投げられる、糸を引くような直球を打者が見逃すシーンは今季も度々見られた。また、直球と同じ腕の振りで変化球を投じるため、打者は幻惑される。

今季は86個の三振を奪っているが、そのうちの53個が直球であり、岸の直球がいかにキレているかを物語っている。ちなみに昨季は159個もの三振を奪っているが、そのうちの107個の三振が直球によるもの。ここまで直球で三振を奪える投手も希有だ。

また、勝敗こそ3勝5敗ではあるが、直球の被打率は昨季が.208で今季が.205と、引き続き優れた数字を残している。怪我をはじめとしたコンディション不良や打線とのかみ合わせといったことから白星は伸びなかったが、球のキレ自体は健在だといえる。

一方、課題なのがカーブとチェンジアップ。カーブの被打率は昨季が.189と優れていたのに対し、今季は.232。チェンジアップの被打率は昨季が.219だったが、今季は.269と両球種とも昨季よりは打ち込まれている。変化球のキレと精度をいかに高められるかが、CSやプレミア12に向けたポイントとなりそうだ。

ボールに対する不安がない

今回のプレミア12のメンバーに選ばれ、来年の東京五輪出場に向けてもアピールの場をもらった岸。プレミア12に出場すれば意外ながらも主要国際大会初出場となるが、2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の際には、先発の柱の一角として期待されていた。しかし、その時は滑りやすいWBC球(ローリングス社製)の扱いに苦戦して代表メンバーから外れた。

今回のプレミア12では、日本のスポーツ用品メーカーであるSSK社製のボールが使われる。既に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が、SSKと、2020年までに開催される野球の国際大会で使われるボールや用具の公式サプライヤー契約を結んでいるのだ。

昨年行われた日米野球ではSSK社製のボールが使用されており、登板した岸も「滑る感覚はない」と手応えを口にしていた。また、縫い目が高く、NPBで使用されている統一球よりも曲がるといわれており、カーブやチェンジアップのキレが良くなるのなら、岸にとっては追い風だ。

イチローも称賛した直球

現在34歳の岸は、東京五輪を迎える時には35歳。それでも、直球をはじめとした各球種のキレは衰えることなく、投球術も円熟味を増してきた。かつてイチローは、2009年のWBC開催前に、同大会のメンバー候補に挙がっていた岸についてこう語っていた。

「岸みたいに、真っ直ぐでカウントを取れる投手はそうそういない。バッターからすれば、リリースポイントの時点と手元に来た時で球のイメージが変わってしまっているんだと思う」

幾多の投手と対戦してきたイチローの発言から、岸の凄さが改めて思い知らされる。日本球界屈指の直球とカーブ、チェンジアップを武器に、岸の投球が国際舞台でどこまで通用するのか注目したい。