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楽天・松井裕樹、驚異の奪三振率を支えるのは“あの球種”

2019 10/1 06:00浜田哲男
自身初のセーブ王に輝いた楽天・松井裕樹ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

自身初の最多セーブに輝く

昨季はリーグ最下位に甘んじた楽天だったが、今季はクライマックスシリーズ(CS)出場圏内の3位に上昇。シーズン終盤はロッテとの激しい3位争いが続いたが、最後の直接対決を制するなど土俵際で強さを見せた。

2本柱として期待されたエースの則本昴大が開幕前に、岸孝之が開幕直後に離脱する苦しい台所事情ながら、森原康平、ブセニッツ、宋家豪、ハーマンらリリーフ陣が踏ん張った。そして最後の砦、クローザーとして君臨した松井裕樹の活躍なくしてのCS進出は難しかっただろう。

今季の松井は68試合に登板し、38セーブをマーク。プロ入り後自身初であると同時に、楽天の投手として初の最多セーブに輝く快挙を成し遂げた。防御率は1.94、被打率は.165と優れた数字を残し、奪三振数107と奪三振率13.82は同リーグのクローザーと比べても群を抜いている。

パ・リーグ クローザー 奪三振率ランキングⒸSPAIA

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一方で課題もある。2勝8敗と負け数が多いことだ。全く危なげのない投球であっさりと打者を追い込み、次々に三振を奪う圧巻の投球を見せることもあれば、急に制球を乱して無駄な四球を出し、手痛い一打を食らう場面も。

本来はリードした状態での登板が理想だが、同点の場面でマウンドに上がるケースも多かったということが、負け数が増えてしまった要因といえる。だが、防御率や被打率が示すほどの安定感・信頼感は感じられなかったというのが、首脳陣やファンの本音ではないだろうか。

しかし、そうしたことを差し引いても38セーブは立派な数字だ。53試合に登板し、5勝8敗5セーブと振るわなかった昨季と比べれば、完全復活したと言っても過言ではない。では、昨季と今季の松井は何が変わったのだろうか。

今季から多投しているスライダーが機能

まずは、投手の生命線ともいえる直球の走りが昨季よりも良くなったことが挙げられる。昨季は直球の被打率が.225で空振り率は約14%だったが、今季は被打率が.161、空振り率が約16%と向上。最高球速も昨季の152kmから今季は154kmにアップしている。

そして何よりも一番大きな変化は、全球種におけるスライダーの比率が昨季の約8%から今季は約30%と大幅に増えていることだ。昨季と今季を比較した時に、ここまで球種の比率が大きく変わることも珍しい。

松井のスライダーといえば、鋭く大きく曲がる軌道を思い描く方も多いと思うが、今季の松井が多投していたのは、球速があり曲がりの小さいスライダーだ。カットボールにも似た独特の軌道のスライダーが、カウント球としても決め球としても機能していた。

昨季のスライダーの被打率は.294と振るわなかったが、今季の被打率は.133。同球種での被本塁打は1本も無く、奪三振107のうち40個はスライダーによるものだ。数値をみても、今季から多投している曲がりの小さいスライダーが松井の投球を支えていたことがよく分かる。

9月22日、本拠地の楽天生命パークで行われた西武との一戦では、2点リードで9回表のマウンドに上がった。前の回に中村剛也の2点本塁打と外崎修汰のソロ本塁打で、2点差に迫られるなど西武打線に火がつきかけていたが、先頭の栗山巧を外角に決まる曲がりの小さな高速スライダーで見逃しの三振。続く木村文紀も、同球種で見逃しの三振にしとめた。ある程度は栗山も木村もスライダーをマークしていたはずだが、手が出なかった。

ちなみにスライダーによる空振り率は約24%と高く、昨季まで多投していたチェンジアップの空振り率(約22%)を上回っている。また、今季はスライダーの比率が大幅に向上していることもあり、チェンジアップの比率は昨季の約22%から今季は約12%へと減少している。

プロ入り後、松井のウィニングショットといえばチェンジアップのイメージが強かったが、そこに改良版のスライダーが加わったことで投球の幅も広がった。

CS突破のキーマン

今季の松井はソフトバンク戦で11試合に登板。1勝3ホールド6セーブを挙げて防御率も0.00という相性の良さを見せている。ソフトバンク戦だけは一度も負けていないというのは強みだ。CSのファーストステージで接戦に持ち込み、松井を登板させるようなシチュエーションにもっていけば、自ずと勝利に近づくだろう。

仮にファーストステージを突破した場合、次に待ち構えているのはリーグ覇者の西武だ。西武戦で2敗を喫している松井は、防御率も5.73とリーグで最も苦手としている。特にメヒアには打たれており、今季メヒアが放った6本の本塁打のうち3本は松井から打ったものだ。

もし西武と対戦することになれば、代打で松井の前に立ちはだかるであろうメヒアへの対策が必須になる。いずれにせよ、2013年以来の日本一を目指すためには、守護神・松井裕樹の活躍が欠かせない。