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甲斐キャノンを上回る盗塁阻止率、オリックス若月健矢にブレイクの予感

2019 8/27 11:00カワサキマサシ
オリックス期待の若月ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

花咲徳栄高からドラフト3位入団の6年目

オリックスがじわじわと借金を返済し、5位に2.5差まで迫ってきた。4月26日以来の最下位脱出だけでなく、勝率5割やCS進出も不可能ではない。そんなチームの扇の要を守るのが若月健矢だ。盗塁阻止率は“甲斐キャノン”と呼ばれるソフトバンク・甲斐拓也の.343を超える.407。二塁送球は1.9秒を切る鉄砲肩の持ち主だ。まだ注目度、知名度とも低いかもしれないが、この機会に若月を知ってもらいたい。

若月は今季になって突然に現れたわけではなく、花咲徳栄高から2013年のドラフト3位でオリックスに入団してプロ6年目。埼玉の強豪で1年秋から正捕手の座をつかみ、3年春には4番・捕手として選抜に出場した。夏の出場経験はないが、3年夏の甲子園終了後に高校日本代表に選出。松井裕樹(桐光学園)、安樂智大(済美/以上、現楽天)、森友哉(大阪桐蔭/現西武)、上林誠知(仙台育英/現ソフトバンク)ら錚々たる顔ぶれとともに、U18野球ワールドカップの準優勝メンバーの一員になった。

オリックスのスカウトはドラフト指名に際して「高校通算28本塁打の長打力と、地を這うような二塁送球が魅力。送球の安定感は、アマチュアトップレベル。体も非常に強く、努力家で将来有望な選手」と評価した。

伊藤光をトレードしてまでレギュラーに据えた球団

とはいっても高卒選手、しかも経験が必要とされる捕手が、すぐに一軍の試合に出られるものではない。若月も1年目はファームで鍛練を重ね、2年目の2015年に一軍初昇格。3年目の2016年はシーズン中盤から先発出場の機会を勝ち取り、チームの捕手最多の85試合出場を果たす。4年目の2017年は開幕スタメンに抜擢され、それまでの伊藤光に替わって主戦捕手に据えられた。

そして若月が5年目の2018年。オリックスは思い切った決断をする。伊藤をシーズン中に、DeNAにトレードしたのだ。これは若月を正妻に据えるとの、球団の意思表示。2013~2015年はいずれも100試合以上出場と、正捕手だった伊藤のシーズン途中でのトレードはセンセーショナルで、世代交代のシーンをまざまざと見せつけた。

こうして若月は今や、完璧にオリックスの正妻に収まった。課題だった盗塁阻止率は2017年が.255、2018年は.306と年々上昇。今季は冒頭に記したように、ソフトバンクの甲斐を上回る.407を記録している。現在23歳と若くて伸び代もあり、将来的にリーグを代表する捕手になれる可能性を秘めていると言っても過言ではないだろう。

パ盗塁阻止率ⒸSPAIA

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しかし若月がそうなるためには、打撃面の改善を図らなければならない。昨季は打率.245と捕手としてはまずまずの数字を残したが、今季は.190と2割すら切っている。ほかのパ・リーグ球団の主戦捕手の打撃成績と比較しても、劣っていることが明らかだ。

「パラダイス銀河」で登場、課題は打力

DeNAに移籍した伊藤は、2013~2016年の間に2割4分から2割8分台の打率を残していたが、2017年に1割台にまで低下。打力が落ちたと判断されたことも、オリックスがトレードを決断した原因のひとつだろう。伊藤は高卒でプロ入りし、100試合以上出場を果たしたのは6年目と、正捕手を勝ち取るまでの経緯は若月と似ている。昨夏のトレードはその伊藤の打を切って、若月の守を取った形になった。だが、チームが捕手に打力も求めるようになった場合、若月の現状の打力では、今のポジションはたちまち危ういものとなる。

とはいえ若月が打で求めるべきは打率よりも、いかにチャンスの場面に高確率で結果を残せるか。今季.224にとどまっている得点圏打率を、昨季の.314ように安定して3割台に乗せることを目指すべきだろう。それが果たせればオリックスの正妻の座は長く自らのものになり、やがてはリーグを代表する捕手になれるかもしれない。チームにとっても扇の要のポジションが固定できれば、長らくの低迷を打ち破る材料のひとつになる。

先輩にも物おじせず、後輩の面倒見が良い。今季から23歳の若さで選手会長に就任するなど、人望の厚さも持ち合わせている。そんな若月の意外な一面は、登場曲に表れる。彼が打席に立つ際は、尾崎豊など昭和のポップスが流れる。彼の世代の曲ではないだけに両親の影響かと思いきや、単純にその曲が好きだから選んでいるのだとか。

今季のチャンスの場面で打席に立つ際に流されるのは、光GENJIの「パラダイス銀河」。球場にいると打者が打席に向かうたびに流行りの曲やヒップホップばかりが続く中、若月の登場時にはそれらとは違うメロディラインに思わず耳が反応してしまう。登場曲で耳をひいた次は、バットで魅せる番だ。好機での打力にも磨きをかけ、リーグを代表する捕手になることを期待したい。

※成績は8月25日終了時点