シーズン中のトレードに変化
今季も7月31日をもって、プロ野球の移籍期限が終了した。近年は開幕後のトレードが増えた印象があるが、実際のところはどうなのだろう。楽天イーグルスが参入、セパ交流戦が開始と、プロ野球が新時代を迎えた2005年以降の15年間とそれ以前の15年間に、12球団がシーズン中に交換、あるいは金銭トレードで獲得した人数をまとめてみた。
結果は1990年~2004年が計108人なのに対して、2005年以降が計138人と約3割近くも増えていた。特に昨年は12人、今年は15人と多くの選手が動いたので、シーズン中のトレードがより強く印象に残っているのだろう。近年、特に目立つのは、セパ交流戦が終わってから活発な動きがあること。過去5年でシーズン中にトレードで球団を移った43人中(ウエイバーによる2017年のメンドーサのトレード含む)、交流戦以前に移籍したのはわずか4人のみ。
今年も6月26日に発表された巨人・吉川光夫、宇佐見真吾と日本ハム・藤岡貴裕、鍵谷陽平の2対2のトレードを皮切りに、オリックス・松葉貴大、武田健吾と、中日・松井雅人、松井佑介の2対2、加えて中日のスティーブン・モヤをオリックスが金銭トレードで獲得。さらに阪神・石崎剛とロッテ・高野圭佑の交換トレード、巨人・和田恋と楽天・古川侑利の交換トレードが7月に入ってから成立している。
サインや作戦の漏えいを危惧して、シーズン中のトレードは異なるリーグ間のチーム同士で行われることがほとんど。それに交流戦では他リーグのチームと対戦するので、シーズン中にトレードを画策する球団は、交流戦の終了を待って動き出すのだ。
ところで肝心なことだが、シーズン中にトレードで移籍した選手は戦力になっているのだろうか。
巨人で救世主となった朝井秀樹
結論から言うと、シーズン中に移籍した選手が後半戦にチームの起爆剤になったことは、ほとんどない。不発に終わったひとつの例として、2011年の西武をあげよう。
この年の西武は7月終了時点で最下位だったが、シーズン終了時には3位へと躍進した。シーズン中にトレードで獲得したのは星孝典(捕手/前巨人)、鬼崎裕司(内野手/前ヤクルト)、江草仁貴(投手/前阪神)の3人。
しかし、鬼崎は2013年には105試合出場と主に遊撃でレギュラークラスの活躍をしたが、移籍初年度の出場は2試合のみ。星は40試合出場も、スタメンマスクはほとんど銀仁朗(炭谷銀仁朗)で、打率も.242とインパクトを残せていない。阪神では中継ぎとして重用されていた江草も1軍登板は12試合に終わり、翌年に広島へトレード。いずれも西武の2011年後半戦の躍進に貢献したとは言い難い。
稀なのは、2010年7月に楽天から巨人に移籍した朝井秀樹のケース。その年の朝井は楽天では1試合のみの登板だったが、巨人移籍後は先発で8試合に登板して4勝、防御率2.01。先発投手陣が軒並み不調だった巨人をクライマックスシリーズ出場圏内に踏みとどまらせ、救世主といえる活躍をした。しかし朝井の巨人での活躍はこの年限りで、ケガの影響もあって2012年に戦力外通告を受けた。
ではなぜ、獲得した選手が活躍する見込みが薄いのに、シーズン中にトレードが行われるのか。
シーズン中のトレードを現場は必要としていない!?
ひとつは、開幕後にケガで離脱したスタメン、あるいは準スタメン級の選手の穴を埋めるため。とはいえ他球団がシーズン中にそのレベルの選手を出す可能性は低く、成立は難しい。結局は1軍半クラスの選手同士で折り合い、大してチームにプラスをもたらさない結果に終わる。
もうひとつは、シーズン前は戦力構想に入っていたが、開幕すると出番がなくなった選手を救済するため。環境を変えれば、まだ活躍できるだろうとの温情トレード。選手にとって球団の配慮はありがたいだろうが、これも活躍の場を失った選手同士の交換なので、戦力の上積みになることはなかなか難しい。
なのになぜ、こうしたトレードが繰り返されるのか。かつて阪神の監督を務めた岡田彰布は自著「そら、そうよ」(宝島社)のなかで、こう綴っている。
「シーズン中に行うトレードは、まず成功しない。(中略)あれは私に言わせれば、フロントが仕事をしているように見せるためなのだ。(中略)シーズン中のトレードはフロント主導によるものがほとんどで、現場としては必要のないものばかりだ」
その後を要約すると、「出番のない者同士の交換で来た選手を、現場は戦力とは思っていない」とも述べている。
シーズン中のトレード事情と現場の感覚のすべてを、岡田のこの言葉が言い表しているのではないだろうか──。