“代打・鳥谷”まさかの打点、得点圏打率ゼロ
虎の生ける伝説が苦闘している。
鳥谷敬は阪神の不動の遊撃手に長く君臨してきたが、近年は三塁、二塁と守備位置を転々。昨年5月には連続試合出場がついにストップし、打率も.232とプロ入り後最低の結果に終わった。
再起をかけた今季は遊撃で勝負するとキャンプから取り組んできたが、開幕スタメンはルーキーの木浪聖也に奪われる。それでも4月半ばまでは先発の機会が与えられていたが、結果を残せず。そこから背番号1の出番は、代打に限られた。
今季初めて代打起用された3月29日のヤクルト戦で三塁打を放ち、代打でも存在感を放つかと思われたがその後、印象的な一打は飛び出していない。今季ここまでは36回代打に起用されて31打数7安打、代打での打率は.226。代打は2割5分打てば成功とされる数字にも、届いていない。
“代打・鳥谷”の印象を悪くしているのは、なんといっても打点がゼロであることに尽きる。今季の代打機会36のうち、得点圏で起用されたのは26回。代打の切り札として送り出されながらチャンスの場面で一度もヒットを放てず、当然のごとく得点圏打率はゼロ。これが2014年に.355と高い得点圏打率を記録した男の数字だとは、まったくもって信じられない。
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第一打席を苦手としているのか
阪神の代打の切り札は「代打の神様」と呼ばれる。その多くは若手時代レギュラーだったものの徐々に出場機会が減り、現役晩年に代打に専念するパターン。初代の八木裕は代打だけで通算98打点をマークするなど抜群の勝負強さを誇り、2代目の桧山進次郎は球団記録の代打通算111打点を挙げた。3代目の関本賢太郎、4代目の狩野惠輔もチャンスに強く、2018年には原口文仁がシーズン代打打率.404と12球団トップの数字を残した。
それ以前にも「神様」という称号こそなかったものの、「浪花の春団治」と呼ばれた川藤幸三や晩年の真弓明信も代打の切り札として活躍。時代を彩る名脇役が名を連ねている。
では、鳥谷が今後「神様」になる可能性はあるだろうか。言うまでもなく、代打は1打席勝負である。鳥谷は試合の第1打席を苦手としているのか気になったので、キャリアハイの打率.313、出塁率.406を記録した2014年シーズンの第1打席結果を洗い直してみた。
表れた数字は126打数33安打18四球4本塁打で、打率は.262。打率は代打の及第点である2割5分を上回る。2014年はほぼ3番で起用され、シーズン通算本塁打8本の半分を初回に放っている。その試合で初めて立つ打席を苦手にしていると、断定できるものではない。
鳥谷のキャリアを振り返ると2014年に限らず3番、あるいは1番の打順で起用されることが主だった。シャープなバットコントロールに加え、卓越した選球眼の持ち主であることが、鳥谷の打者としての特徴。2011年には最高出塁率のタイトルを獲得し、そこから3年連続でリーグ最多四球も記録した。出塁する、チャンスを広げるといった、チャンスメーカーの役割が求められる1、3番は、鳥谷にとって最適だったのだろう。
しかし“代打・鳥谷”が期待されているのは、ポイントゲッターとしての仕事。29歳だった2010年には遊撃手史上最多のシーズン104打点と決める力があったが、38歳になった現在の結果を鑑みると、残念ながらポイントゲッターとしての能力には陰りが見えると言わざるを得ない。
では、虎のレジェンドが生き残る道とは──。
背番号1の明日は首脳陣がカギを握っている
入団1年目の2004年9月から2018年5月まで連続試合出場を続けたように、鳥谷は1試合で4打席に立って、そのなかで結果を残すタイプ。それが本人の身に染みついていることもあるだろうが、すぐに代打屋への転換は難しそうだ。
今季の阪神の遊撃はルーキーの木浪、中堅の北條史也の併用が主だが、ともに安定感に欠ける。ならば木浪、北條の状態が良くない時期に、鳥谷を先発で起用するのはどうだろう。実際に7月23日のDeNA戦で、3ヶ月余りぶりに突然先発で起用されて周囲を驚かせたが、4打数2安打と結果を残している。
しかし翌日は相手の先発が左投げの濱口遥大だったからか、スタメンを外れた。それなのに、翌々日は左の今永昇太が先発にも関わらず再びスタメン出場。しかしこのときは、3打数0安打に終わった。木浪は7月26日に一軍登録を抹消され、その日にシーズン途中で獲得した新外国人ソラーテを先発で起用するなど、阪神の遊撃は混沌としている。
定まらない起用は、選手にプラスに作用しない。とくに鳥谷のように実績のある選手を先発で使うなら、調子が落ちるまで使い続けるべきではないだろうか。木浪が復調したとして、若手を育てる意図で北條との併用を基本線とするなら、阪神の遊撃のジョーカーはソラーテではなく、経験豊富な鳥谷が適任だと考える。
鳥谷は今年が5年契約の最終年。現役終盤の今に新しい役割を手にできないと、未来は明るくないかもしれない。それをつかむのはもちろん本人の力であるが、どうすれば鳥谷が生きるかを探るのはベンチの役割でもある。今季は第3遊撃手として控えさせながら代打の経験を積ませ、来季以降はそのウエイトを徐々に代打へとシフトさせていくのか、あるいは……。首脳陣の後半戦での起用法が、鳥谷の野球人生に大きく関わってくるだろう。
※数字は2019年8月1日終了時点