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阪神・岩田は晩成型?ヒゲ左腕の先輩・下柳は35歳から80勝

2019 7/16 07:00楊枝秀基
阪神・岩田稔ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

ツーシームとスライダー武器に今季3勝

昭和の時代に比べると選手寿命は格段に伸びた。40歳で現役というだけで「不惑の〇〇」という形で騒がれたものだ。だが、近年は選手の自己管理、トレーニング法、故障時のスポーツ医学など、様々な面で環境が改善。40歳を過ぎても現役でプレーする選手が珍しくなくなった。

それでは35歳が若いか。そう言われると、そうでもないのは一般的な感覚とズレてはいないはず。7月5日、阪神のベテラン左腕・岩田稔が広島を相手に6回2安打1失点で今季3勝目を挙げた。手元で動くツーシームと、鋭く曲がり落ちるスライダーを軸に、スタイルを確立させた好投をみせた。

「粘り強く投げるのが僕のスタイル。その中でしっかり守ってもらってアウトを重ねるのが僕の投球」と話す姿に、35歳でさらなる輝きを予想せずにはいられなかった。

岩貞や岩崎ら若手左腕に押され…

岩田が阪神に入団したのは岡田彰布監督の下、リーグ優勝を果たした2005年のドラフトだった。大学社会人ドラフト希望枠で、最高条件を提示され入団。3年目の08年に10勝(10敗)を挙げ、潜在能力が開花したかと思われたが、立ち上がりの不安や好不調の波が大きい印象が強く、安定感を欠いた印象は否めなかった。

岩田稔の年度別成績ⒸSPAIA

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昨年は未勝利に終わったように、この3シーズンで3勝。その間に岩貞や岩崎、横山らの左腕が頭角を現してきた。水面下では他球団、特にパ・リーグ球団が熱心に岩田の調査を進めるなど不穏な空気も漂っていた。本人は「どんな状況でも自分の仕事をするだけ」と冷静に振舞っていたが、30代半ばで成績が下降線となれば置かれた立場の厳しさも自覚していたはずだ。

そんな中、今季は全て先発で11試合に登板。3勝2敗、防御率3.24と安定感のある投球をみせている。内容的にも大きく崩れるということもなく、ピンチでも落ち着いた粘りの投球が印象的。プロ14年目にしてベテランらしさが漂ってきた。現在は口ひげを蓄えており、阪神のベテラン左腕といえば真っ先に思いつく「あの人」のような風格を漂わせている。

35歳から8シーズンで1年平均10勝した下柳

あの人とはダイエー、日本ハム、阪神、楽天で通算22シーズン、129勝を挙げた下柳剛氏だ。実は同氏は入団から最初の12年で49勝。阪神に移籍した2003年以降、2010年(現役晩年の11、12年は未勝利)までの8シーズンで80勝を積み重ねているのだ。

デビューから日本ハム時代はロングリリーフ、中継ぎ登板が多かったため個人の白星につながらなかったことは当然。特筆すべきは35歳になるシーズン(1968年5月16日生まれ)から42歳の間に年平均10勝というのは驚異だ。05年にはJFKと噛み合い、規定投球回不足ながら15勝で最多勝に輝いている。

下柳剛の年度別成績ⒸSPAIA

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プロ14年目の岩田は今季10月で36歳を迎える。今季の3勝を足して通算59勝を積み重ねてきた。ただ、高校二年の秋に患った1型糖尿病の影響や、大学時代も故障がちだったため、投手として完成形となったのはここ最近と考えても不自然ではない。すなわち伸びしろがまだあるということだ。

捉えづらい独特の球筋

チーム関係者も他球団スコアラーも「岩田の直球は球筋が独特で捉えづらい」と声を揃える。実力からすればまだ結果が物足らない。技術、経験値、体力などそれぞれのバランスが整えば岩田はまだまだ成績を伸ばす。今季から40歳までの5シーズンで平均10勝を重ねれば100勝も超える。先輩左腕の下柳氏のように晩年に大輪の花を咲かせるのか。今後の岩田に注目だ。