簡単には観られない三塁打
野球場で観戦するとき、あえてグラウンドが俯瞰できる席を取ることがある。グラウンドから離れた部分、できればすり鉢状になった客席の高いところがお気に入りだ。その席から眺める選手たちの動きは、まるで野球盤を眺めるかのように、まるごと一度に楽しめる。
とりわけ三塁打は美しい。ひいきのチームの打者が打ったボールが右中間を破り、その選手が俊足を飛ばし、ためらうことなく2塁ベースを蹴り三塁に向かう。強肩の外野手が投げたボールが内野手を経由し、三塁に送られる。緊迫のクロスプレーだ。走者はタッチをくぐり抜けられたのか…。一瞬の静寂の後、審判が大きく両手を広げると、球場のボルテージは最高潮に達する。プロの技術が凝縮された三塁打は、まさに野球の華といえる。
ボールがフェンスを越えると時間が止まるホームランと違い、三塁打を打った打者は、守備陣の精緻なプログラムを実行するかのような、無駄のない打球処理に立ち向かわなければならない。外野の間を抜ける打球を打てるパワーと、塁間を華麗に駆け抜けるスピードの両方を兼ね備えた者だけが、一気に三塁に到達できるのだ。
そんな場面をお気に入りの席で観ていると、「なぜ三塁打が表彰の対象にならないのか」と不思議に思う。さらに三塁打はそう簡単に観られるものではない。
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年間858試合が行われる中で、三塁打を目撃できる確率はおよそ3割にしか過ぎない。もう少しこの貴重な三塁打が注目されても良いのではないだろうか。
過去5年の「三塁打王」は?
そこで、昨年までの5年間の「三塁打王」をあらためてチェックしてみた。いずれも「なるほど」と膝を打ちたくなるような選手が揃っている。
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さらに過去5年間の通算三塁打をチェックしてみると、パ・リーグでは15年の秋山翔吾(西武)と14年の西川遥輝(日本ハム)の「三塁打王」経験者が激しく競い、セ・リーグでは15年と18年の2度「三塁打王」になった田中広輔(広島)が、16年のトップに輝いた大島洋平(中日)を抑えて首位に立っている。
3桁の三塁打を打っているのは3人のみ
ところがそうした選手たちも、プロ野球通算の三塁打数ではトップ10どころか、20位以内にも入っていない。
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ランキング1位は世界の盗塁王、福本豊(阪急)だ。その福本を含め、三塁打が3桁に達したのは、長いプロ野球の歴史の中で3人しかいない。そしてランキング上位を占めるのは往年の名選手たちで、トップ10には長島茂雄(巨人)や張本勲(東映、日拓、日本ハム-巨人-ロッテ)も入っている。
現在、現役選手トップは、58本の三塁打を放ち23位につけている松田宣浩(ソフトバンク)だ。16年に5本、17年に6本、18年に3本とコンスタントに記録していて20位以内をうかがうが、36歳という年齢を考慮すると、やはり秋山(31歳)、西川(27歳)、田中(29歳)あたりの飛躍に期待がかかる。
また、ルーキーイヤーの17年に「三塁打王」となった26歳の源田壮亮(西武)は、18年も9本と2年続けて三塁打を量産しており、今後が楽しみな選手だ。
18年の「三塁打王」、23歳の上林誠知(ソフトバンク)にも注目だ。今年は、パ・リーグで平成最後のホームランを放った。4月に死球を受け右手薬指を骨折した影響で戦線を離脱していたが、早期復帰を目指し2軍に合流、1軍への登場も近そうだ。
いずれの選手にも、過去に3人しかいない3桁三塁打を目指してほしい。そして、パワーとスピードを兼ね備えた選手たちが果敢に三塁を狙う。そんなシーンをお気に入りの席から観てみたい。