代打で適時二塁打
6月4日、毎年恒例となったセ・パ交流戦が開幕した。例年、パ・リーグ優位となっているこの交流戦だが、初日は3勝3敗の五分。これからどのような推移を見せるか楽しみである。
さて、そんな交流戦初日、プロ野球界にとって嬉しい話題があった。大腸がんから復活を目指していた原口文仁(阪神)が、今季初めて一軍に登録されたのである。さっそく9回表1死三塁のチャンスに代打で登場。大歓声に迎えられた原口はフェンス直撃の適時二塁打を放った。二塁到達時にはヘッドスライディングも見せ、その存在感を発揮した。
大歓声に沸いたZOZOマリンスタジアムだが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかったはずだ。
原口は今年1月24日に自身のTwitterアカウントを開設。その初日に直筆でファンへ向け大腸がんを告白した。これは手術前のことであり、今後がどのようになるかは神のみぞ知る、そんな大事なときであった。それから1週間後の1月31日には手術が完了したことを報告。本来であればキャンプインしていたであろう時期に、ベッドの上で過ごさざるをえなかった。
だが、2月14日には早くも球場でのリハビリを開始。そこから約4カ月で一軍という戦いの場に戻ってきただけでなく、すぐさま結果を出した。月並みな言葉ではあるが、同じように病気で苦しむ人たちにとって大きな希望となったことだろう。また、敵味方関係なく、多くのファンが感動したことも想像に難くない。
レギュラー復帰への壁は高い
一軍復帰を果たした原口だが、ほんとうの戦いはここからはじまると言っても過言ではない。セ・リーグで上位争いを繰り広げるチームで一軍定着を目指すには、結果を残し続けることが大事になってくる。
現時点で原口は代打の切り札としての起用が濃厚。昨シーズンは代打で打率.404(57打数23安打)と驚異的な成績を残しており、適正が十分にあるということは間違いない。しかし、本人は27歳とまだ若い。「代打の切り札」という専門職に定着するつもりはないだろう。やはりレギュラーとして試合にでることを当面の目標としているはずだ。
だが、チーム状況を見るとレギュラーを確保するためのハードルはかなり高い。
捕手は梅野隆太郎が正捕手として君臨。打率は3割を超えており、打率ランキングでも上位の数字をマーク。守備面でも盗塁阻止率が4割超でリーグ2位と、攻守に渡って結果を残している。また、オールスターゲームのファン投票においても、中間発表ではセ・リーグの捕手部門で断トツと、人気面でもトップクラスの選手となった。
一塁では新外国人のマルテが起用されている。現在8試合連続安打中と調子を上げており、28試合の出場で6本塁打と長打力もある。このように、捕手、一塁ともにレギュラーを簡単に奪える状況ではないのだ。
原口は大腸がんからの復帰という第一歩を踏み出したが、その先には一軍定着、レギュラー獲得とまだまだ道は続いている。技術や体力はもちろんだが、超絶な精神力をもって4カ月ほどで戻ってきた原口なら、レギュラー争いにも加わり、ポジションを奪い取ることも決して不可能ではないだろう。
原口の復帰により、レギュラー争いが一段と激しさを増し、それが結果的に戦力の底上げへとつながる。代打の切り札としてだけでなく、チームの起爆剤としても原口が果たす役割は大きい。もしかしたら、原口が矢野燿大監督の就任初年度に優勝を勝ち取るためのキーマンかもしれない。
※数字は2019年6月5日終了時点