赤星の球団新人記録上回る13試合連続安打
阪神のルーキー・近本光司が好調だ。打率.321はリーグ4位、盗塁数は16でリーグトップ。猛虎打線の切り込み隊長として申し分のない成績を挙げている。
近本は2018年のドラフト1位。と言っても、藤原恭大(大阪桐蔭→ロッテ)、辰己涼介(立命館大→楽天)を抽選で外した末の「外れ外れ1位」だった。170cmと小柄で俊足、社会人(大阪ガス)出身の左打ち外野手という経歴が、2003、2005年の優勝メンバー、赤星憲広と共通していることから「赤星2世」との評判はあったものの、開幕前の期待はそれほど大きくなかった。
ところが蓋を開けてみると、赤星が果たせなかった1年目での開幕スタメンをゲット。5月1日の広島戦で赤星以来、セ・リーグ新人で18年ぶりとなる1試合3盗塁をマークすると、翌2日の広島戦では赤星が持っていた球団新人記録を塗り替える13試合連続安打をマーク、6月5日のロッテ戦では7度目の猛打賞を記録するなど、予想以上の活躍を見せている。
新人王、盗塁王、ゴールデングラブに輝いた赤星
ここで簡単に赤星の成績を振り返っておきたい。センターを守っていた新庄剛志がメジャー移籍を表明した2000年オフのドラフト4位。入団会見で「新庄さんの穴は僕が埋めます」と宣言し、話題を集めた。
翌春キャンプでは、当時の野村克也監督が赤星の他、藤本敦士、沖原佳典、上坂太一郎、平下晃司、松田匡司、高波文一の俊足選手7人を「F1セブン」と命名。新庄が抜けてスター不在となっただけに、若手選手を「セット売り」する策略だった。
当初は足は速いものの、非力なため「打球を引っ張れない」との評判がもっぱらだったが、努力と負けん気でレギュラーを獲得。ルーキーイヤーの2001年は打率.292、39盗塁で新人王と盗塁王に輝き、ゴールデングラブ賞も受賞した。
以降、2005年まで5年連続盗塁王を獲得し、2度の優勝に大きく貢献。2009年にダイビングキャッチを試みた際に脊髄損傷の重傷を負い、同年オフに惜しまれながら引退した。現役時代から盗塁数に応じて車椅子を寄贈する活動を続けており、爽やかなルックスもあって老若男女問わず愛された選手だった。
パンチ力は近本だが、肩に不安も
赤星の活躍と電撃的な引退がファンや関係者に強烈な印象を残したため、近本に対して「簡単に赤星を超えることはできないだろう」という懐疑的な見方が多かったのかも知れない。しかし、近本は自らの実力で“赤星超え”を果たそうとしている。現段階での成績を比較してみたい。

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まず盗塁数。5月からレギュラー定着した赤星と、開幕スタメンの近本を単純比較はできないが、近本が今のままのペースで走ればシーズン40盗塁の計算になり、赤星をわずかに上回る。
打撃面では近本がシーズン181安打ペースでヒットを量産しており、赤星を大きく上回る。すでに5本塁打をマークしており、パンチ力では近本に分があると判断しても差し支えないだろう。
守備面の比較は難しいが、ともに俊足で守備範囲は広い。ただ、最多補殺を2度達成した赤星に比べると、近本の肩を不安視する声が少なくないのも事実だ。関学大時代に肩と肘を故障して投手から外野手にコンバートされた経緯もあり、甲子園の広い外野で影響が出ないとも限らない。
実際に赤星を超えたかどうかは、数年後、もっと言えば近本が引退してからでないと判断できないが、新人時代の成績に限れば超える可能性は十分だ。
新人最高打率の坪井、球団新人最多安打の高山
阪神でルーキーイヤーから活躍した野手は田淵幸一、岡田彰布ら数多いが、近本と同タイプの左打ちの巧打者に限れば、赤星の他に1998年の坪井智哉、2016年の高山俊が挙げられる。

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東芝からドラフト4位で入団した坪井は1998年に首位打者を争い、球団新人新記録となる135安打をマーク。リーグ3位の打率.327は、2リーグ分立以降では現在も新人最高打率となっている。
坪井の球団記録を塗り替えたのが2016年の高山だ。日大三高時代に甲子園優勝、明大時代は東京六大学野球記録の131安打をマークした実績を引っ提げてドラフト1位入団すると、開幕からレギュラーとして起用され、シーズン136安打を記録、新人王に輝いた。
近本が夏場も好調を維持できれば、ヤクルト・村上宗隆、広島・床田寛樹らと争う新人王も見えてくるだろう。ちなみに新人最多安打のプロ野球記録は、今から63年前に佐々木信也(高橋)がマークした180安打。赤星や坪井、高山、さらには佐々木をも超える活躍ができるか、注目される。
※成績は2019年6月5日終了時点