復帰した姿に、多くのファンが涙
5月31日、本拠地での楽天戦。中村晃の名がコールされると、ヤフオクドームが凄まじい歓声に包まれた。開幕の1週間ほど前に自律神経失調症を患っていることを公表し、2軍戦、3軍戦で調整をしていた中村が戻ってきたのである。
2回裏、チャンスで今季初打席がまわってくると、いきなりライト線を破るタイムリー。打席に立っている姿を見るだけで涙ぐんでいたファンの涙腺は、その瞬間に崩壊した。二塁ベース上で見せた野球少年のような清々しい笑顔はとても印象的だった。
SNSには、「中村選手が1軍のグラウンドに戻ってきた…それだけで胸が熱くなりました」「7番ライトで中村晃のコールを聞いたら涙がでそうになった」「中村晃のタイムリーで涙が止まらない」「少年のように嬉しそうに野球しよる晃ちゃんがやばい」といったファンからの声が多数寄せられていた。
常勝ソフトバンクを支え続ける男の存在感を改めて感じるとともに、こんなにもファンに愛されているプレーヤーなんだということを痛感した。
純粋にプレーを楽しんでほしい
中村の帰還は予想していたよりも早いと感じた。筆者も昔、自律神経失調症を患っていた経験があるからだ。風邪や怪我と違い、おおよそいつまでに治るということが分からない。そして、自立神経失調症の症状は個々によって様々だ。不眠になる方もいれば、夜は眠れるけれども常に不安に襲われる方、体が重くなったり、熱くなったり、何事にもやる気がなくなったり…。場合によっては長く付き合っていかなければならない病気でもある。
また、これは一例にしか過ぎないと思うが、それまで自分が普通にできていたことに対して、「よくあんなこと今までできていたよな…」と感じるようにもなる。中村が、開幕してから調子の上がらない上林誠知に対して、「プレーできてるだけでもすごいことだよ」と声をかけて気遣っていたという話を知った時、妙に共感した自分がいた。
こうした話を聞くと大変そうに思われるかもしれないが、ふとしたきっかけで自信を取り戻したり、「自分は大丈夫だ」といった自己暗示がうまくいくと、自分でも気づかないうちに回復しているケースもあるそうだ。
今、中村がグラウンドに立っているということは心身のバランスがうまくいっている証しであり、この先もプレッシャーとうまく付き合いながらコンディションをキープしていくことが何よりも大切なことだと思う。復帰してから6試合に出場し3安打という状況ではあるが(6月6日終了時点)、全く焦る必要はない。卓越した技術と経験があるのだから、結果は後からついてくるだろう。
2014年には最多安打に輝き、2013年から2015年までは打率3割をマークするなど、これまでの実績を考えれば、否が応でも周囲は期待をかけてしまうと思うが、今は、決して無理をせず、純粋にプレーを楽しんでほしいと思う。
無理のない範囲での起用を
現在、ソフトバンクは30勝25敗2分で楽天と並びリーグ首位。6月4日から交流戦に突入したが、中日との初戦では6-4の接戦を制し、そこから3連勝中だ。
ソフトバンクは、過去14年間の交流戦で通算203勝121敗12分。勝率は12球団中1位の.627と圧倒的な強さを誇っている。リーグ優勝奪還に向け、交流戦で一気に貯金を増やしたいところだ。開幕直後から怪我人が続出し厳しい戦いが続いていたが、グラシアル、福田秀平らが戻り、この先にも上林らの復帰が迫るなど戦力が整いつつある。
中でも、その存在が大きいのが中村だ。球界屈指のヒットメーカーの名前は、ベンチにあるだけでも相手にとっては脅威だろう。過去5年間の交流戦の平均打率も.307をマークするなど安定した成績を残している。
先発出場を続けさせるのか、コンディションを見極めて休ませながら使うのかなど、起用方法が今後どうなっていくかは分からないが、コミュニケーションを綿密にとった上で無理のない範囲で起用してほしいと思う。
現代人は、ますます激しくなる競争社会、管理社会の中で多くのストレスを抱えており、それが原因で自立神経を乱す人々が増えている。中村がグラウンドに立っているだけで、どれほど多くの人々が勇気や希望をもらえているかは想像に難しくない。今後も元気な姿を見せてほしいと願っている。
※数字は2019年6月6日終了時点