則本、岸の二枚看板欠くも上位争い
今後、球界に名を残す名将の誕生をリアルタイムで目にしているのかもしれない。
「名選手即ち名監督にあらず」という言葉を耳にするように、選手としての実績が必ずしも指導者としての結果に反映するとは限らない。そんな中、楽天の新指揮官に就任した平石洋介監督は、5月15日終了時点で2位タイにつけており、奮闘していると言っていい。
昨年は最下位とあって下馬評が高かったわけではない。その上、エースの則本昂が右肘の手術で復帰は球宴頃という状況。さらに開幕戦で岸が左太ももを痛めて戦線離脱と、二枚のエースをいきなり欠いての戦いを強いられた。それでも5月8日、9日のソフトバンク戦で連夜のサヨナラ勝利を決めるなどチームのムードは上々だ。
2リーグ制以降最少のプロ通算37安打
平石監督は現役引退後、2012年から育成コーチや二軍コーチなどを歴任し、2018年には一軍ヘッド兼打撃コーチとしてシーズンに臨んだ。だが、6月16日に梨田昌孝前監督が辞任したため翌17日から監督代行としてチームを指揮。球団最年少の38歳で生え抜き初の監督代行、そのまま2019年の監督昇任とトントン拍子で現場のトップに立った。
NPB球団の30代での監督就任は1980年の武上四郎(ヤクルト、当時39歳)以来39年ぶり、パ・リーグでは1974年の上田利治(阪急、当時37歳)以来45年ぶり。また、いわゆる松坂世代である1980年生まれとしては初の一軍監督就任と、異例づくしの斬新な人事となった。
さらに特筆すべきは、名選手とは言えなかった現役時代の成績だ。

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平石監督はプロ通算37安打。2リーグ制以降の一軍監督経験者の中では上田利治の56安打を下回り歴代最少となる。しかし、監督通算1322勝を誇る名将の上田監督と同じく、実績は乏しいという点からみれば期待してみたい気持ちになるというもの。
ちなみに横浜と延長17回の死闘を繰り広げたPL学園時代も、主将ながら背番号は13だった。
「トップに求められるのは調整能力」
ただ、プロ球団が理由もなく監督を選出することはない。
楽天球団関係者は「現在の野球チームというか、社会がそうなってきているが、グループのトップに求められることは調整能力。平石監督はフロントの意見も柔軟に聞き入れ、若い選手たちともコミュニケーションが取れる。これからの新しい監督像になるのではないですか」と話す。
若くして現役は引退したが、指導者としてコツコツと経験を積み、球団経営サイドとも意思疎通を行ってきた。平石監督はなるべくして指揮官に就任したのかもしれない。
PL学園の先輩であり、現在はソフトバンクの松山秀明二軍守備走塁コーチは
「だいぶ年齢の離れた(13歳差)可愛い後輩であるというだけではなく、彼は素直な態度でいつも挨拶をしれくれたし、まず人として素晴らしい性格を持っている。そして、僕自身もそうなんですが、選手として十分な実績を残したとはいえない人間が、監督として頑張ってくれてるのは勇気をもらえるし、今後の選手たちにも励みになると思うんです。他チームですけど嬉しいですよ。野球界のためになると思う」
と平石監督の資質を評価している。
「四番に長嶋がいない」と漏らしたミスター
かつて、ミスタープロ野球と称された長嶋茂雄氏は、巨人監督就任1年目に球団史上初の最下位になった。その時「四番に長嶋がいない」と漏らしたという。こうしたスター監督とは対極にいる存在が平石監督ということになる。
前出のソフトバンク・松山コーチは「平石は一軍、二軍を行ったり来たりや、試合に出られない選手の気持ちも分かる監督に違いない」と言うように、選手の悩みも理解できる監督は貴重な存在だ。
厳しさの中に優しさを携え育てる手腕、人当たりよく、辛抱強さも兼ね揃えている。オーナーがIT企業であり、チームも若手が多い楽天で、平石監督が名将となり得る可能性は十分にあるだろう。