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西武・愛斗「常に未来を見据えている」 欠点を武器に変え待望のプロ初安打

2019 4/26 12:25永田遼太郎
愛斗,春季キャンプ,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

同級生と張り合っても仕方ない

「ガシャーン」 その打球は西武第二球場の防球ネットを超えて、左翼後方にある若獅子寮の屋根に直撃した。

2018年9月28日、イースタンリーグの対千葉ロッテ戦。埼玉西武・愛斗(あいと)が放った、その豪快な一発に球場中がどよめいていた。

近い将来、埼玉西武の中軸を担うことになるだろう期待の逸材。ハマったときの打球はどこか破壊的でもあり、今風に言うなら「エグイ」の一言に尽きる。

同級生には東北楽天・オコエ瑠偉、千葉ロッテ・平沢大河らすでに一軍で結果を出し始めている選手達もいる。だが、彼はまるで気にも留めていないかのように自分の未来だけを見据えている。

「自分がやるべきことを自分はやっているだけなので、同級生がどう活躍していようと気にもならないし、そこと張り合っているわけではないです。未来(の自分だけ)をずっと見ている感じで今、やっています」

そう語る彼の姿勢に自分を大きく見せようとか虚栄心の欠片であるとかは全く見つからなかった。

初ヒットはあくまで通過点

花咲徳栄高から入団して今年でプロ4年目を迎える22歳。今季はキャンプからオープン戦と好調を続け自身初の開幕1軍の座を掴んだ。

4月25日のZOZOマリンスタジアム(対千葉ロッテ)では待望のプロ初安打も記録。延長10回の大熱戦を制する貴重な適時打となったが、本人はそうしたひとつひとつの結果に一喜一憂することなく、その視線の先にあるものだけを見つめている。

「初ヒットにこだわってはいないです。目標もそこではないので…」
「自分がやるべきことを変えないというのは常に思っています。この打席で結果を残すというバッティングではなくて、そこ(初ヒット)はあくまで通過点。長い目で見て、それがたまたまヒットになるか、ならないかってだけの話なので…。常に先々を見据えて引き続きやっていきたいと思っています」

そう話す彼の姿がなんとも頼もしく映った。

今は技術面よりもメンタル面

プロ3年目のシーズンが終わった昨年のオフ。「このままではいけない」と己を見つめ直し、自身を大きく変えていこうとする一つの答えを出した。

「野球における考え方の改善」

知人のメンタルトレーナーにも相談して、生まれてから21年間で根付いた自身の考え方を、根本から見つめ直そうと決意したのだ。

「よく『心技体』とか言われますけど、『なんでその順番になっているんだろう?』と、しっかり考えてみたんです。心を磨かないと技は磨けない。今回、そこが分かったと言いますか、だから技術面というよりも今はメンタル面。どんなときもまず心を整えるように意識しているんです」

だからプロ初安打が出なくてもそのことに不安や焦燥感を覚えることはなかったし、筆者をはじめとする報道関係者の多くからそうした質問が飛んでも、気にすることはなかった。

結果にとらわれない。1軍のレギュラーとして試合に出るために、何が必要で、何が足りないのか。一方で監督を始めとした首脳陣の人達は自分の何を高く買ってくれているのか、それを見失わないようにと考えた。

そのために必要なこととして、準備の大切さをより考えるようにもなった。

「ストレッチもそうですけど、まずは心を整えるところから始まります。ただストレッチで体を伸ばすだけじゃなくて、ストレッチをしながら心も整える。そういう意味でやっています」

人はなぜ自分に自信が持てないのかと問われたら、その原理は準備の足りなさへ結び付く。

練習量に不安があれば、相手に対して気後れもするし、データ等の頭の整理がついてなければ、思わぬ相手の行動にあたふたと翻弄されることだろう。しっかり準備を行うことで心が整うし、相手ペースではなく自分ペースで打席へと入ることができる。

2019年の愛斗が変わってきた部分はまずそういうところだ。

一軍で戦うということ

4月12日、メットライフドームで行われたオリックス戦ではそうした勉強の成果が出た。

9回裏、0対0の同点。1死1、2塁の場面。8回表から守備固めとしてライトに入った愛斗が、サヨナラ勝ちのきっかけを作った。

「とりあえず三振や内野フライが一番いけない場面だったので、(カウントも)追い込まれていましたし、バットに当てたら、とにかく全力で走ろうとだけ考えていました」

カウント1ボール2ストライクからの4球目、外角のストレートをおっつけ気味に打った愛斗の打球はオリックスのセカンド・西野真弘の右へと転がった。

この打球を西野が処理すると二塁ベースカバーに入ったショートの福田周平へ素早くトス。併殺を狙った。

だが、全力疾走で駆け抜けた愛斗の足は速く、これに焦った福田の送球は一塁手の構えるミットから左に逸れて、一塁手がこれを落球。その間に二塁走者の外崎修汰が本塁へ一気に生還。サヨナラ勝ちを収めた。

一塁を駆け抜けたところで振り返ると、自分のもとへ先輩達が嬉しそうに駆け寄って来た。そのことが安堵感にも繋がったし、自分の結果にだけとらわれない一軍で戦う真の意味を知った気がした。

球界を代表するような選手に

昨オフ、メンタルの勉強をして、様々な「気付き」とも出会うようにもなったという。

たとえば彼はプロ入りから過去3年間、怪我や病気などで戦線を離脱することが多かった。

2年目の4月、イースタンリーグの試合中に左膝を負傷。同年の8月には右肘も痛め、『さあここから鍛えるぞ、アピールするぞ』というときに秋季キャンプの参加を見送った。

さらに翌年は春季キャンプ開始早々にインフルエンザにもかかり自らブレーキをかけてしまう。そのオフに参加したアジアウインターリーグでも、再びインフルエンザにかかって、台湾からの帰国を余儀なくされるなど常に怪我や病気が彼のまわりにつきまとった。

そんな中、彼が導き出した答えはある逆転の発想だった。

「昨年のオフに「欠点が逆に武器になる」という逆転の発想を教えてもらったんです。そこで怪我しやすい、風邪をひきやすいという自分の欠点も良い様に捉えるようになりました。

そこで色んなことに気付けるんだと感じることが出来ましたし、たとえば危ないタイミングがどこかというのも分かるし、空気がどうなっているかも感じることが出来る。

すると、(自分の)周りが見えて来たんです。(怪我もインフルエンザも)今までは自分が防ごうとしていなかった。それは自分の準備が不足していたってことです。それを今までの自分は欠点だとマイナスに考えていたんですけど、今回、色んな経験をして、(勉強をしたおかげで)プラスに考えられるようになった。それが自分の中では大きいです」

試合中は埼玉西武・辻発彦監督ら首脳陣のすぐ近くに陣取って、何かを吸収しようとする貪欲な姿勢を見せている。現状では秋山翔吾、金子侑司、木村文紀らレギュラー陣の高い壁に阻まれ出場機会も限られているが、彼ならば近い将来、そうした壁を打ち破る日がきっと訪れるに違いない。

愛斗が言う。
「今というか常に未来を見ています。(自分は)いずれレギュラーを獲りますし、レギュラーを獲って活躍してる姿も自分の中では見えているので…。(1軍で)もっと試合には出たいですけど、目先の結果だけを考えるんじゃなくて、最終的に(自分が)どうなりたいかを考えてやっていきたいです」

待望のプロ初安打が飛び出した4月25日の試合後、お立ち台でも彼はこう言っていた。

「今はチャンスも少ない。でも、そのチャンスをモノにして球界を代表するような選手になりたいです」

令和の新時代を目前に、22歳の若獅子が大きな雄叫びを今、あげようとしている。