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長野久義が移籍したカープのストーリーとFA制度の考察

2019 1/27 11:00藤本倫史
野球
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カープのストーリー

広島東洋カープの4連覇への筋書きはすでに始まった。長野移籍が決まった瞬間、私はそう思った。

人は日常で起こるストレスや嫌なことを解消するために、何かを求める。その何かの一つがエンターテイメントであり、プロスポーツである。プロスポーツは生ものであり、「筋書きのないドラマ」と言われるが、人々はメディアから流れる情報、もしくは自分たちでストーリーを描き始める。

カープはここ数年で、明快かつ劇的な変化がある刺激的なストーリーを作っている。2014年のオフに阪神タイガースから戦力外通告を受けた新井貴浩が復帰。さらに黒田博樹が電撃的にメジャーリーグから復帰した。だが、Aクラスに入ることができず、オフに前田健太がメジャーリーグへ移籍。広島ファンはまたダメかと落胆していたが、2016年に25年ぶりのリーグ優勝を果たす。そして、この年に黒田は引退。ただ、広島はここで終わらず、3連覇を果たした。

長野移籍で始まる新たなストーリー

2018年のオフに丸が巨人へFA移籍し、菊池はポスティングシステムによるメジャーリーグ移籍の希望を出している。さらに、新井も引退を表明した。3連覇の中心選手が抜けることで、このストーリーも終息するかに思えた。

しかし、長野を人的補償で獲得することで、物語が続くことになる。皆さんもご存知のように、長野自身がストーリーを持つプロ野球選手である。2度の指名拒否により、巨人へ入団。主力選手として優勝に貢献し、首位打者などを獲得する。ただ、近年は不調により絶対的なレギュラーでは無くなり、復活を考える中でカープへ移籍となった。

3度の優勝を経験した長野がカープの選手たちに巨人で得た経験を伝え、成長を促し、そして巨人を相手に戦う。その結果としてカープの優勝に貢献するというストーリーは、愛すべき巨人軍への想いを考えると複雑だが、長野はカープにとって重要なカギを握る選手であることに違いない。

たが、冷静に考えると、日本のFA制度は考え直さないといけない。特に人的補償制度は問題がある。FA制度の補償はあくまで、戦力均衡を考えて行われている。これは金満球団ばかりが勝利する確率や人気を上げることを防ぐことが目的であり、私もその部分では必要であると考える。

FA制度の疑問

しかし、人的補償の場合、移籍を望んでいない選手の働く権利を奪ってしまうことになる。今回の場合、長野はそれに当てはまっている。メジャーリーグの場合、FA制度は複雑で様々なケースがある。今回の丸のような主力選手の移籍の場合、クオリファイング・オファーという制度がある。これはFAの選手に対して、所属球団がメジャーリーグ全体の上位125選手の平均年俸と同額の1年契約を提示する。それに対して残留か拒否を選手は決め、拒否して移籍した場合、元の所属球団は移籍した球団からドラフトの上位指名権を得ることができる。

私はこの制度であれば、上記のような選手の権利を奪うことが無くなると考える。特に長野は入団の経緯を考えると、ドラフトも含めてFA制度を一考しなければならないだろう。

これに付随して、若手や中堅選手の移籍活発化を考えなければならないだろう。長野の場合は人的補償が悲劇的なものと考えられるかもしれないが、その前に移籍した一岡竜司のケースはそれに当てはまらない。移籍前は巨大戦力に埋もれていたが、移籍後、カープの重要なセットアッパーとなり、むしろ良い事例になっている。 サッカーでは、ビッククラブではなかなか出場の無い選手を期限付き移籍させて、経験を積ませている。メジャーリーグでは、出場機会の無いマイナー選手に対して、ルール5ドラフトで移籍させるような制度もある。

プロ野球は12球団しかなく、保守的な考えが強いが、このようなことを考えていかなければならないだろう。それは選手の働く権利もそうだが、若手選手や出場機会の無い選手にとってもチャンスになり、ひいてはプロ野球の活性化にもつながる。

長野の移籍は様々な部分で考えさせられるが、広島東洋カープは間違いなく今年も注目チームになるだろう。また、新たなストーリーに期待したい。