2018年は苦難の連続
2018年、2年連続9度目の日本一に輝いたソフトバンク。指揮官となり4年目のシーズンを迎えた工藤公康監督は、就任以降3度目の日本一を達成。選手時代の輝かしい実績に加え、指揮官としても名将の地位を築いた感がある。
しかし、2018年は苦難の連続だった。2017年のリーグ優勝、日本一の原動力となったセットアッパーの岩嵜翔とクローザーのサファテが開幕直後に相次いで離脱。開幕投手を務めたエースの千賀滉大も右肘付近の張りを訴え、2試合登板後に出場選手登録を抹消された。
さらに、主軸の内川聖一、松田宣浩、デスパイネらも開幕から打率.200前後が続くなど踏んだり蹴ったりのチーム状況だった。
ソフトバンクがもたついている間に、西武は開幕から8連勝と開幕ダッシュに成功。その後も順調に貯金を重ねて首位を快走。ソフトバンクは時折差を縮めるも勢いに乗り切れず、常に4~7ゲーム差をつけられていた。
後半戦に驚異的な巻き返し
前半戦は39勝37敗の貯金2、オリックスと同率の3位で、首位西武には6.5ゲーム差をつけられる厳しい状況だった。後半戦に入ってからも勝率5割前後を行ったり来たりで、8月のお盆前には首位西武とのゲーム差は11.5まで広がった。
しかし、8月17日のオリックス戦の勝利を皮切りに9連勝、その後も連勝を重ねるなど怒濤の快進撃を見せると、9月中旬までの25試合を21勝4敗。一時は首位西武とのゲーム差を3.0まで縮め驚異的な巻き返しを見せた。
それではなぜ、ソフトバンクがここまで巻き返すことができたのか。
食事会での意見交換がチーム再生のきっかけに
投手陣で言えば、途中加入のミランダや支配下選手登録されたばかりの大竹耕太郎が先発ローテーションを支えるほどの活躍を見せ、野手陣で言えば、牧原大成やグラシアルが台頭したことも当然大きな要因だろう。
しかし、何よりもチーム再生のきっかけとなったのが、チームが不調だった夏場に開催された、工藤監督と若手選手達による食事会での意見交換だった。
地域情報番組「土曜の夜は!おとななテレビ」(TVQ九州放送)で、同番組に出演していた中村晃、今宮健太、牧原大成が食事会の時のことを振り返った。
お酒も入り、工藤監督に普段は言えないようなことも言える雰囲気になったようで、牧原は「バントは嫌いです」と告白。工藤監督は「そっか。バント嫌いなのか」と返して会話は終わったようだが、それ以降は牧原に対して「バントのサインが減った」と今宮が証言。牧原は「それから打たせてもらうことが増えた」と、自分の意見がすぐに反映されたことを明かした。
また、打順をどうすべきか?という議論にもなった模様。あらゆる意見が飛び交う中、工藤監督の「晃、まとめてくれ」という一言で、最終的には中村が提案した打順を採用。そして、その打順は食事会を終えた直後の試合でそのまま反映された。
それまでは様々な打順に入っていた牧原が1番に定着。2番には上林誠知や今宮が入り、3番には中村が入ることが増加。4番には柳田悠岐がどっしりと座ることに。この打順が功を奏し、8月17日から9連勝するなどチームは勢いづいた。
物理的な側面で打順が機能したことも当然あるかと思うが、選手達自らが提案した打順で試合に臨んでいるという精神面での充実感があったように思う。
コミュニケーションを重視し、選手達と積極的に対話する指揮官は多いが、選手達の意見をすぐにそのまま試合に反映することは、そうそうあることではない。自分達の意見が反映されれば、選手達のモチベーションが上がることは容易に想像できる。
本当の意味で歩み寄れる指揮官
工藤監督は就任一年目の2015年にリーグ優勝、日本一を達成した際、その成功要因として、コミュニケーションの重要性を説いている。まずは一人ひとりをよく理解し、どんな選手になっていきたいのかを知ることから始めたと言う。
「チームが先ではなく、個人が先」。理想のチーム像があって、そこに必要なピースを当てはめていくのではなく、個人の集合体がチームを形成するという考え方だ。
個々の能力をいかにして引き上げていくか。それにより個々のモチベーションが上がり、全選手が同じ方向へ向かって舵を切れるという。前述した食事会は、それを促すための絶好の機会となったわけだ。
今の世代の選手達は、良くも悪くも合理的な考え方をする人間が多いとされている。ロジックの成り立っていない意見や精神論に対しては、否定的な態度を示すことも多い。そうした相手には、指揮官の意見を押しつけるのではなく、アイディアを出し合うなど相互コミュニケーションを図ることが大切だ。
工藤監督のように、本当の意味で互いに歩み寄れる指揮官を、今の選手達は求めているのかもしれない。