「プロに入れば同じスタートライン」
彼には逆境を乗り越えていく強さがある。
2018年10月28日、明治神宮野球大会東北地区代表決定戦。
富士大学の左腕・鈴木翔天はとても敗戦直後とは思えない清々しい顔で記者達の質問に答えていた。
「良いこともあり、苦しいこともあり、濃い4年間だったのかなって思います」
そう言って大学生活の4年間を振り返る彼の様子は、今から約1年前、明治神宮大会で大阪商業大学を相手に4回2/3で9三振を奪い、センセーショナルな全国デビューを飾ったあのときとまるで変わっていなかった。
良い結果も、悪い結果も自分の中で消化して、前を向ける強さ。
今秋のプロ野球ドラフト会議では、周囲で予想された上位指名の評価ではなく、支配下選手としては最後の指名となった東北楽天のドラフト8位指名。それでも何かに振り回されることなく「プロに入れば同じスタートライン」と強い決意を示し、プロ入りに前向きな姿勢を見せた。
思えばあのとき、彼のそうした強さは身についていたのかもしれない。
2014年7月30日、横浜スタジアム。全国高校野球選手権神奈川大会決勝。
この日背番号7をつけ、向上高校の先発のマウンドに立ったのが4年前の鈴木翔天だった。
相手は杉崎成輝(現東海大)、豊田寛(現国際武道大)、平山快(現東海大)といった強力な野手を揃えた東海大相模。さらに相手マウンドには吉田凌(現オリックス)が上がっていた。
「ああいう場面で投げるのが自分は好きで、決勝の大観衆の中、強い気持ちで投げられたのも良かったのかなって思っています。あれを(大学でも)もう一回、体験したいなって」
のちにこの試合をこう振り返っているように、大舞台では自然とスイッチが入るタイプだ。
結果は4回途中(3回1/3)を投げ2失点し、試合も敗れたが、この経験があったからこそ、大学でさらに自分は成長出来たと口にする。