広島と巨人に戦力差はない?
広島3連覇の立役者、丸佳浩のFAでの巨人移籍が決定した。
6年連続ゴールデングラブ賞、3年連続ベストナイン、2年連続MVPという実績が表す通り、丸が現在のセ・リーグでナンバーワン外野手であることは疑いようがない。好守に優れた3番・中堅手の移籍で、来シーズンから両チームの立場はどう変わるのだろうか。
今シーズン、広島は2位ヤクルトを7ゲーム、3位巨人を13.5ゲーム引き離す圧倒的な戦いぶりでセ・リーグを制した。しかし、実はある見方によっては、広島と巨人にほとんど戦力の差はなかった。
その見方とは、「得失点差」のことである。プロ野球は得失点差でシーズン順位が決まることはないが、得失点差は実際の勝率に高い相関を示すことがわかっている。
「ピタゴラス勝率」でみる広島と巨人
今シーズンのセ・リーグ順位と得失点差の関係は以下の通りだ。

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広島の得失点差はプラス70。巨人はプラス50。得失点差だけを見ると、巨人はマイナスの2位ヤクルトを大きく上回り、広島とは20点差。
セイバーメトリクスの指標には、得失点差から勝率を予想する「ピタゴラス勝率」というものがある。「この得点と失点の関係なら、これくらいの勝率になる」ということを統計的な法則から導き出したものである。ピタゴラス勝率よりも、実際の勝率が高ければ、戦力の割に多く勝つことができたことになる。逆もまたしかりということになる。
※ピタゴラス勝率=(得点の2乗)÷(得点の2乗+失点の2乗)
ピタゴラス勝率によると、広島(.551)と巨人(.542)の差はわずか9厘。この数字だけ見ると、今シーズンの巨人は広島と互角に戦っても不思議ではなかった。
勝率の差が約1割、13.5ゲーム差という順位表を見れば、1人の選手の移籍でどうこうなるようには思えない。ただ、ピタゴラス勝率だけで見ると、丸の加入で戦力的な両チームの立場が逆転してもおかしくはないのかもしれない。
丸の移籍と名将の復帰がどう左右するか
では、なぜ今シーズンも広島は変わらず強く、巨人は戦力通りの戦いをすることができなかったのだろうか。1点差試合の勝敗は広島が23勝16敗、巨人が12勝24敗。接戦をいかにものにできるかどうかが、順位に直結したと言えそうだ。
ピタゴラス勝率と実際の勝率の差を見ると、広島はプラス.031と両リーグで2番目に高い。一方、巨人はマイナス.056で両リーグ最下位。広島にとって、この値は少ない得失点差で勝利を拾う効率の良さを表していると言える。
逆に勝つ時は大差だが、本当に1点が欲しい時に得点できなかったり、1点を守り抜きたい時に失点してしまったりと、12球団で最も効率が悪かったのが、今シーズンの巨人ということになる。僅差の試合での強さや、シーズン全体で見た効率の良さは、監督の采配力が大きく左右する。今シーズンの広島のように、いかにピタゴラス勝率よりも高い勝率を叩き出すかが監督の手腕となる。
来シーズンから巨人に復帰するのが、リーグ優勝7回、日本一3回を誇る名将・原辰徳監督である。
戦力に多大な上積みをもたらすリーグナンバーワン外野手の丸と、その戦力を扱いチームを勝利へ導く原監督。2人が巨人に入ることで、セ・リーグ情勢はどれだけ変わってくるのだろうか。