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ヤクルトは-7点、巨人は+50点 「得失点差」でみる両チームの伸びしろ

2018 11/3 11:00青木スラッガー
野球ボール,ⒸShutterstock.com
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得失点差マイナス7点で2位浮上を果たしたヤクルト

今シーズン、セ・リーグでサプライズを起こしたチームはヤクルトだろう。前年の借金51から、貯金9で2位という大躍進。しかし「得失点差」をみると、なぜ2位に浮上できたのか、一見不思議に思える。

プロ野球はサッカーのように得失点差でシーズン順位が決まることはない。10対0の圧勝も、1対0の辛勝も、ひとつの勝利という意味では同じだ。

ただし、得失点差は実際の勝率に高い相関を示すことがわかっている。得失点差の大きさは「戦力」の大きさと言い換えられるのだ。最近日本にも増えてきたGMを中心とした編成部門の役割は、得失点差(=戦力)が大きくなるようにチームをつくりあげていくこと。現場で指揮を執る監督にとっては、得失点差が小さいチームをいかに勝たせられるかが、采配の妙になるだろう。

今シーズン、ヤクルトの得失点差はマイナス7点。では他のチームはどうだったのか、得失点差と順位の関係について検証しよう。

順位と得失点差の関係は……巨人はプラス50点で3位

パ・リーグは5位と6位以外、得失点差通りの順位となった。一方、セ・リーグにおける順位と得失点差は、いびつな並びとなっている。得失点差を比較すると首位広島がプラス70点、3位巨人はプラス50点で首位と20点しか変わらない。しかし、得失点差がマイナスのヤクルトに、巨人は及ばなかった。

セリーグ順位表,ⒸSPAIA

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パリーグ順位表,ⒸSPAIA

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野球を統計学的に分析するセイバーメトリクスの指標のひとつに、得失点差から勝率を予想する「ピタゴラス勝率」(※)がある。「この得点と失点の関係なら、これくらいの勝率になる」ということを統計的な法則から導き出したものだ。実際の勝率がピタゴラス勝率よりも大きければ、何らかの要因があって戦力以上の戦いができたという評価になる。

※ピタゴラス勝率=(得点の2乗)÷(得点の2乗+失点の2乗)

ピタゴラス勝率でセ・リーグの順位を並び替えると、1位・広島(.551)、2位・巨人(.542)、3位・ヤクルト(.495)、4位・阪神(.458)、5位・中日(.455)、6位・DeNA(.443)。統計学においては、巨人がヤクルトより上どころか、首位広島とも1分しか変わらない勝率が望める得失点差だった。

さらに各チームのピタゴラス勝率と勝率の差を比べてみると、ヤクルトがプラス.037、巨人がマイナス.056。やはりこの両チームが12球団で最も得失点差と勝率の相関が低い。両チームの何が、このような結果につながったのだろうか。

大きな差がついた1点差試合の勝敗

単純に考えれば、ヤクルトは大敗も多いが僅差できっちり勝ち、巨人は勝つときに大勝するものの接戦に弱かったのではないかということになる。実際に、1点差試合の勝敗はヤクルトが23勝15敗で貯金8。対して巨人は12勝24敗で借金12。互角に競り合った試合の結果が順位に直結した。

僅差の試合で勝敗を大きく左右するのは、終盤に登場するリリーフ陣だ。外国人投手に誤算があった中、急遽守護神を務めた石山泰稚が35セーブでリーグ2位の成績。セットアッパーの近藤一樹もリーグトップの35ホールドで「最優秀中継ぎ投手賞」を獲得した。大卒2年目左腕の中尾輝や、終盤は高卒2年目の梅野雄吾も台頭。計算以上の働きをみせたリリーフ陣が、躍進の原動力といえるだろう。

一方、マシソンが7月に離脱した巨人は、チーム最多セーブがカミネロの11個。ホールドは24個の澤村拓一が最多。昨シーズン登板のなかった澤村の復帰は嬉しいが、リリーフ陣は力も頭数も足りず、非常に苦しいシーズンだった。

ピタゴラス勝率.542だった巨人の「伸びしろ」

もちろん、得失点差と実際の順位がかけ離れてしまうのは、リリーフ陣の働きだけが要因ではない。監督の采配、そして「運」によるところも大きい。

ヤクルトが試合巧者で、巨人がそうでなかったといえばそれまでだ。しかし、今シーズンの得失点差から考えたいのは、これからのことだ。決してヤクルトの頑張りがたまたまだったという意味ではないが、得失点差をみる限り、今の戦力のままでは来シーズンに運の揺り戻しが来てしまうことも十分考えられる。

反対にピタゴラス勝率.542をたたき出すだけの戦いをしていた巨人は、原辰徳監督という名将の復帰で劇的な変化が起こるかもしれない。

現在3連覇中の広島も、その前の2015年は今シーズンの巨人と同じように、得失点差プラス32点を記録するも4位、ピタゴラス勝率.533に対し、勝率.493だった。このときの広島は実際の勝率に対する得失点差が「伸びしろ」だったといえる。このことが巨人にも当てはまるだろうか。来季の戦いぶりは要注目だ。