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沢村賞は議論の余地なし?巨人菅野が2000年以降3人目の「投手三冠」達成

2018 10/13 07:00青木スラッガー
菅野智之,ⒸSPAIA
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選考基準7つオールクリア 沢村賞は菅野で当確か

近年まれにみる「打高投低」傾向だった今年のプロ野球。特にセ・リーグは15名もの打者が打率3割を達成。全体的に投手にとって、受難のシーズンとなった。

そんな中、巨人・菅野智之の投球は今年も圧巻で、前年に比べ勝利数と防御率は少し落としたものの、沢村賞選考基準7つをすべてクリアした。昨シーズンは自身最高の成績で、最多勝(17勝)と最優秀防御率(1.59)のタイトルを獲得。初の沢村賞に選出され、開幕前のWBCでも大活躍をみせた球界のエースだ。

「15勝」「150奪三振」「10完投」「200投球回」「25登板」「勝率6割」「防御率2.50」という7つの選考基準がある沢村賞。オールクリアの投手はまれだが、勝利数に関しては過去の未達成受賞者は13勝の広島・大野豊(1988年)のみだ。実質的に「15勝」達成が選考のスタートラインとなる。

今シーズン、15勝以上をマークした投手は菅野のほかに、広島・大瀬良大地、西武・多和田真三郎の計3名。菅野は勝利数と勝率以外の5項目で大瀬良と多和田を凌駕しており、1995・1996年の巨人・斎藤雅樹以来、史上5人目となる「2年連続沢村賞」は当確といえそうだ。少なくとも、菅野以外の沢村賞選出は考えにくいだろう。

今シーズン15勝以上の投手 沢村賞選考基準の成績

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巨人では1999年上原以来 2000年以降3人目の「投手三冠」達成

「平成の大エース」と呼ばれた偉大な先輩の背中が見えてきた菅野だが、今シーズンは「沢村賞以上」ともいえる価値のある記録も残している。

前述の沢村賞選考基準のうち、15勝はリーグトップタイ。200奪三振、10完投、防御率2.14、202投球回は単独リーグトップだ。タイトルとしては2年連続の最多勝、3年連続の最優秀防御率、2年ぶり2回目の最多奪三振を獲得し、「投手三冠」達成となった。

2000年以降で最多勝・最優秀防御率・最多奪三振を同時達成したのは、2006年のソフトバンク・斉藤和巳と2010年の広島・前田健太に続いて3人目。巨人では1999年の上原浩治以来となる偉業である。

これだけでも十分すごいことだが、菅野はもうひとつの先発投手タイトル「最高勝率」も最後まで可能性を残していた。最高勝率を獲ったのは広島のエースに成長し、15勝7敗・勝率.682をマークした大瀬良。菅野は15勝8敗・勝率.652と、1敗の差でわずかに及ばなかった。

最高勝率も獲って「投手四冠」となっていれば、史上12人目の快挙。同時に、完封数でもダントツの成績を残している菅野は、史上8人目となる「投手五冠」にも届くところであった。

「投手五冠」まであと一歩 時代に逆らう最強の「先発完投型投手」

投手五冠とは、最多勝・最優秀防御率・最多奪三振・最高勝率の先発投手4タイトルに、公式な表彰があるわけではないが最多完封を加えたもの。達成人数からしても打者の「三冠王」(達成7人・11回)に相当する先発投手最大の栄誉として、記録マニアにはよく知られているものだ。

今シーズンの菅野の完封は「8」。ラスト先発3登板で驚異の3連続完封勝利も飾った。8完封は1978年の鈴木啓示(近鉄)以来なんと40年ぶり。

近年のプロ野球は先発・中継ぎ・クローザーの投手分業が確立され、沢村賞の意義である「先発完投型投手」は年々減ってきている。その背景を踏まえ、今シーズンからは補足的に「クオリティスタート(7回3失点以上)※」の達成数も評価基準に採用するようになった。

過去に投手五冠を達成したのは三冠で名前を挙げた斉藤のほか、沢村栄治、スタルヒン、藤本英雄、杉下茂、杉浦忠、江川卓の計7名。平成に入ってからは2006年の斉藤のみで、その前は1981年の江川。他5名は1950年代までの達成と、ほとんど絶滅危惧種に近い記録である。

そんな中で沢村賞選考基準をオールクリアし、レギュラーシーズン最終登板の内容次第では投手五冠もあり得た菅野。現在のプロ野球界において異質な存在といえるだろう。

※「クオリティスタート」の本来の意味は「6回3失点以上」だが、沢村賞選考においては「7回3失点以上」の投球を指すものとして使用されている。