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退任の高橋由伸監督が残した「遺産」岡本、吉川尚ら若手選手が成長

2018 10/12 11:00青木スラッガー
野球ボールⒸShutterstock.com
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退任の高橋由伸監督が果たした「育成」

3年間続けて優勝を逃した「責任」は、高橋由伸監督にあるのだろうか。「1年目は土を耕し、2年目に種をまき、3年目に水をやって、4年目に花を咲かせる」……という、のんびりしたやり方は許されない。球界の盟主、巨人軍は常に優勝を求められる。高橋監督はその期待に応えられなかった責任を取り、今シーズン限りでユニフォームを脱ぐ選択をした。

しかし、良い言葉を使えば「大型補強」、悪く言えば「その場しのぎ」のチーム運営は、もはや通用しない時代に移ってきている。

ドラフト会議の「逆指名(希望枠)」制度が廃止されてから12年。広島はその後のドラフトで獲得した選手を中心に黄金期を築き、西武も全員が生え抜きのレギュラー陣でパ・リーグを制した。広島も西武も、じっくり時間をかけて土を耕すところから今のチームをつくりあげたのだ。

優勝争いすらできなかった高橋監督の3年間にも、「育成」という意味では実りがあった。特に就任3年目の今シーズンは、何人もの若手が一軍で経験を積み、大きく成長した。

4年目ドラ1岡本が主砲に成長

高橋監督最大の功績が、岡本和真のブレイクであることは言うまでもない。将来の主砲として入団時から期待されていたドラ1だが、昨シーズンまでは通算1本塁打。4年目の今シーズンは「3割30本塁打100打点」を達成し、スラッガーの仲間入りを果たした。

岡本は「6番・一塁手」として開幕スタメンに抜擢。開幕2戦目から2試合連続で本塁打を放つなど序盤戦でしっかり結果を残し、6月からは不動の4番に定着する。7月になると32打席連続無安打とスランプに陥ったが、最後まで若き大砲を4番の座から動かさなかった高橋監督には「必ずこいつをものにしてやろう」という信念のようなものが感じられた。

その影響で、昨シーズン主に4番に入った阿部慎之助は代打出場が中心。「併用」という中途半端な起用は行わなかった。阿部は昨シーズン129試合で15本塁打76打点と、フル出場でまだまだやれるところを見せてくれたが、かつての主砲を外す決断は英断だったといえるだろう。

2年目のドラ1吉川尚が弱点だった二塁手に定着

まだ実績のなかった2016年ドラ1の吉川尚輝も、開幕スタメンに抜擢され結果を残した。序盤戦から好守を連発し、8月にヘッドスライディングの怪我で離脱するまでは二塁手レギュラーに定着。序盤は課題だった打撃も、7月の月間打率.386と離脱直前には急成長を見せていた。

二塁手と同様、近年の巨人で難しいポジションとなっていたのが中堅手だ。一時期レギュラーを掴みかけた立岡宗一郎や橋本到などの若手もなかなか定着せず、昨シーズンFA加入の陽岱鋼も故障がちでレギュラーと呼べる選手が不在だった。しかし、今シーズン終盤に3年目の重信慎之介が台頭。一時は打率4割をマークするなど、課題の打撃で一定の成長を示した。

「機動力」は今の巨人に欠けている要素のひとつだ。岡本、吉川尚に続き、来シーズンは重信のレギュラー奪取にも期待がかかる。また、ルーキーの田中俊太や大城卓三(たくみ)も200打席以上を経験し、若手野手の層は厚みを増してきた。

6勝の今村をはじめ、若手投手陣にも厚み

投手では、左腕の今村信貴(のぶたか)が開花の兆しを見せている。毎年ローテーション入りを期待されながら結果を出せず、昨シーズンは3登板で0勝。だが、今シーズンは13登板で6勝をマークし、防御率も3.86とまずまずの成績を残した。

今シーズンは2勝8敗と振るわなかったが、田口麗斗(かずと)は高橋監督就任の2016年から2年連続2桁勝利とブレイクした。また昨シーズンは畠世周が6勝。この3年間、毎年楽しみな若手投手が出てきている。彼らの女房役である捕手の小林誠司も、未だ打撃の課題からは抜け出せないものの3年間レギュラー格をつとめて経験を積んだ。

この3年間で巨人監督の使命である優勝は果たせず、いくつかの不名誉な記録は残った。しかし、「巨人にとって決して無駄な3年間ではなかった」数年後にそう言えるよう、岡本ら由伸チルドレンたちは再び常勝軍団を築いていけるだろうか。