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高校通算62本塁打の今宮が挑む「300犠打」と、スラッガーとしての未来

2018 8/20 15:01青木スラッガー
野球ヘルメット,ⒸShutterstock.com
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今宮「300犠打」へ過去ダントツのスピード達成か

ホークス不動のショートストップ・今宮健太が異例のペースで「犠打」の通算記録を積み重ねている。8月4日ロッテ戦で今シーズン14個目の犠打を決め、これで中日の荒木雅博と並ぶ歴代10位タイの通算284犠打。歴代6名しか届いていない「300犠打」の大台が目前に迫ってきた。

300犠打を達成しているのは、川相昌弘(533犠打)、平野謙(451犠打)、宮本慎也(408犠打)、伊東勤(305犠打)、田中浩康(302犠打)、新井宏昌(300犠打)。プロ入り最短年数での達成は、川相、宮本、田中の13年目となっており、今シーズン9年目の今宮は過去ダントツのスピード達成となる可能性が高い。

現役選手では菊池涼介(広島)も7年目で238犠打と今宮とほぼ同じペースで積み重ねており、こちらにも最短での達成に期待がかかる。ただ、単純な年齢でいけば、大卒入団の菊池は現在28歳で、今宮より2学年上のため、このままいけば今宮が最年少での達成となるのは間違いなさそうだ。

通算62本塁打を打った高校時代から「バントの名手」への転身

プロ野球史上、誰よりも早いペースで犠打を積み重ねているということは、川相が持つ通算533犠打の世界記録更新も、遠くない将来に期待できるということでもある。しかしそんな「バントの名手」も、高校時代は世代屈指のスラッガーとして鳴らした選手だった。

今宮の高校通算本塁打は62本。遊撃手の守備は当時から一級品で、投手としての才能もズバ抜けていた。3年夏は甲子園で154キロを計測。今年の高校野球は大阪桐蔭の根尾昂が「二刀流プレーヤー」として注目されているが、単純な数字のスペックとしては、その根尾を投打で遥かに凌ぐ力を持っていたことになる。

2009年、今宮は大リーグ志向が強かった川崎宗則の後釜候補としてドラフト1位指名を勝ち取る。入団後は広い守備範囲と最速154キロの強肩を活かした遊撃手守備で早くから頭角を現し、3年目にはメジャーへ移籍した川崎宗則とちょうど入れ替わる形で一軍定着。4年目には遊撃手レギュラーを不動のものとし、ゴールデングラブ賞にも初選出された。「川崎の後釜」というハードルの高い期待に見事応えてみせた。

そして、守備力以外にもうひとつ、レギュラー定着の決め手となったのがバントだった。2013年にパ・リーグ新記録の62犠打を達成し、翌年も同数のバントを記録。この2年を含め、昨シーズンまでシーズン最多犠打を4度達成。柳田悠岐、内川聖一などタレント揃いの打線で「つなぎ」の役割を担い、常勝軍団を支えてきた。

バントの世界記録更新は、今宮にとって期待すべきものなのか

今宮は3度の日本一にレギュラーとして貢献する中、犠打数も驚異的なスピードで積み重ねてきた。2016年6月(24歳10か月)の通算200犠打、2017年7月(25歳11か月)の通算250犠打、ここまでの節目はともに最年少での達成だった。

今シーズンは78試合で14犠打とややスローペースだが、早ければ今シーズン中に300犠打達成の可能性もある。その先は「川相超え」へ関心が高まっていくはずだ。しかし、今宮がこのまま犠打の世界記録へ突き進んでいくことを、素直に期待していいのだろうか。

昨シーズン、今宮は打撃で飛躍的な成長を遂げた。打率.264、14本塁打、64打点、15盗塁。52個のバントを成功させながら、打撃各部門でキャリアハイをたたき出し、打力でも貢献してみせた。その中で、300犠打に到達した6名が誰もできなかった記録を達成している。「50犠打」と「二けた本塁打」の同時達成である。

300犠打を達成した6名以外でも「50犠打&二けた本塁打」に当てはまるのは2013年の広島・菊池(50犠打・11本塁打)のみ。球史を振り返ってもごく最近の2名しか達成していない、「小技」と「大技」を両立させたレアな記録なのである。

「バントのサインを出されない打者」という未来

若くからレギュラーで活躍してきた今宮だが、まだまだ27歳になったばかり。「大技」も見せ出したところで、スラッガーとしての未来をあきらめるには惜しい選手だ。

今宮は高卒の入団会見時「3割・30本・30盗塁」を目標に掲げていた。トリプルスリーを達成するような選手に、バントのサインを送る監督がいるだろうか。そう考えると、簡単に「次は世界記録へ」とは言いたくないものだ。300犠打の次は「バントのサインを出されない打者」という選手としての第二章が幕開けする。そういう可能性を最初から否定したくはない。

今宮は今シーズン、打撃に苦しんでいる。78試合で打率.236、6本塁打。打てずに珍しく感情をあらわにすることもあった。8月16日楽天戦、7回のチャンスで内野フライに倒れた際、地面に思い切りバットを叩きつけ、ベンチに帰ってからもヘルメットを投げつけた。

道具に当たるのは決して褒められた行為ではない。だが、今まで見たことがなかったような気迫だった。長いトンネルを抜けた先に、打撃覚醒の未来はあるだろうか。

※成績は2018年8月19日終了時点