「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

「88年世代」最後の覚醒 ヤクルトの新守護神・石山泰稚

2018 7/29 10:00勝田聡
東京ヤクルトスワローズ,石山泰稚,ⒸYoshihiro KOIKE
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸYoshihiro KOIKE

田中に前田、柳田、坂本、野球界を席巻する1988年世代

「1988年世代」
2006年夏の甲子園決勝で延長再試合となった、早稲田実業の斎藤佑樹(現・日本ハム)と駒大苫小牧高の田中将大(現・ヤンキース)の世代。世間では斎藤の愛称「ハンカチ王子」から「ハンカチ世代」とも呼んでいた。

田中をはじめ、前田健太(現・ドジャース)、坂本勇人(巨人)、堂上直倫(中日)、梶谷隆幸(横浜)ら多くの選手が高卒でプロ入りをはたした。田中が1年目で新人王を受賞し、2年目からは坂本がレギュラーとなる。大学進学組が入団する前から球界を席巻し始めていた。

2010年ドラフトでは、大学へ進学した斎藤、澤村拓一(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)、秋山翔吾(西武)といった選手達が入団。彼らが次々と結果を残しはじめることで「最強世代」と呼ばれるように。

投手陣には田中や前田、野手を見ると柳田、秋山、坂本と屈指のメンバーが揃う。恐らく「松坂世代」同様、数年の間は「1988年世代」として大いに野球界を盛り上げてくれるだろう。

プロ野球ファンの多くは昨シーズンの時点で、宮﨑敏郎(DeNA)がこの世代最後の覚醒者だと思っているのではないだろうか。宮﨑は日本文理大を卒業後、セガサミーを経て2012年ドラフト6位でDeNAに入団。5年目となる昨シーズンに大ブレイクし、首位打者を獲得した。これは田中が2007年に新人王を受賞してから10年後の初タイトルだったこともあり、「この世代の最後の大物では?」とも囁かれた。

交流戦で圧巻の防御率0.00

今シーズン序盤は投打が噛み合わず、最下位で交流戦に突入したヤクルト。しかし、交流戦に突入するとそれまでの低調が嘘のように白星を積み重ね、見事最高勝率を勝ち取った。その立役者のひとりが新守護神・石山泰稚だ。10試合に登板し7セーブをマーク、防御率は0.00とまさに圧巻の成績で日本生命賞を受賞し、全国の野球ファンにその名を知らしめた。

宮﨑と同じく大卒社会人経由の石山は、2012年ドラフトでヤクルトに入団。同期には小川泰弘がおり、ドラフト順位は1位が石山で2位が小川だった。小川が1年目から圧倒的な成績を残したことで、ドラフト順位を勘違いして記憶されることも多々。

1年目から60試合に登板しチームに貢献した石山だったが、小川の活躍には及ばず知名度もそれほど上がらなかった。その後はチーム事情で先発や中継ぎなど様々な場所で起用されるが、なかなか目立つ成績を残せないまま6年目を迎えた。

今シーズンの開幕もクローザーではなく中継ぎとして。しかし、守護神として期待された新外国人選手のカラシティーがいまひとつのため、シーズン序盤からクローザーへ転向。転向当初こそ失敗する場面も見られたが、その後は16試合連続無失点を記録するなど安定感抜群の成績。そして、7月24日からの巨人との3連戦では3試合連続セーブを挙げ、チームの2位浮上に大きく貢献した。

派手さはなくとも抑える仕事人

他球団の守護神に比べ派手さがなく、サファテ(ソフトバンク)のような剛速球も、山﨑康晃(DeNA)のような目を見張るツーシームもない。抑えても打たれても感情を露わにすることがほとんどないその表情は、まるで仕事人のようだ。

チームにとってもヤクルトファンにとっても2015年のバーネット以来、3年ぶりの「頼れる守護神」だ。日本人投手としては、2005年の石井弘寿以来13年ぶりとなる。現在、ブルペンを仕切っているのが、投手コーチになったその石井弘寿というのもファンからすれば感慨深いはず。

セ・リーグは広島が一歩抜けだしており、リーグ優勝はかなり厳しい状況。だが、石山がこのまま好投を続ければ、逆転優勝の可能性は充分にある。ファンが夢見続けてきた歓喜の時には、どのような表情を見せてくれるのだろうか。その時を楽しみに待ちたい。

最後にひとつだけ。石山の誕生日は1988年9月1日だ。日本では古くから「防災の日」としてなじみ深い日でもある。石山がチームの勝利のために最後の安全を確保する。それは生まれたときから必然だったのかもしれない。

【石山泰稚(ヤクルト)今シーズン成績】
41試合/3勝0敗6H17S/防御率1.44

※数字は2018年7月28日終了時点