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突然の戦力外、一軍出場ゼロ……「最後のPL戦士」吉川大幾が逆襲をかける

2018 7/17 13:00青木スラッガー
ⒸShutterstock.com
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気迫のヘッドスライディングで追加点を演出

巨人には3人の吉川がいる。抜群の二塁守備で注目を集めている吉川尚輝。2012年にパ・リーグ最優秀選手、最優秀防御率、ベストナインに輝き、2017年に日ハムから移籍した吉川光夫。そして、もう一人。吉川3人衆の中で最古参にあたる吉川大幾だ。

吉川大は、2012年にドラフト2位で中日に入団するも4年目まさかの戦力外通告を受け、再起を期した移籍先の巨人でも2017年一軍登板なし。そんな苦難の男がいま一軍で存在感を放っている。

今季の吉川大は、前半戦終了時点で57試合に出場。プロ8年目にして自己最多の出場試合数だ。役割は主に代走と三塁手・マギーの守備固め。打席数は13と多くないが、前半戦終盤には試合を決める活躍を見せたシーンもあった。

7月6日のホーム広島戦。2対0でリードした8回裏1死走者なしの場面で、吉川大は代打で登場する。広島・フランスアの投球を引っ張り、打ち取られた打球が三遊間に転がって遊撃手・田中広輔のグラブに収まるも、一塁はヘッドスライディングで間一髪セーフに。続く坂本の打席で二盗のスタートを切ると、捕手の悪送球で一気に三塁まで進む。その後、マギーのタイムリーで生還。快足とガッツで貴重な追加点を演出した。

早すぎる戦力外通告、昨季は一軍出場ゼロ……訪れた2度の逆境

吉川大は現在25歳とまだ若いが、これまで決して平坦ではないプロ野球生活を歩んできたプレーヤーだ。2度の大きな逆境を経験し、今の姿がある。

吉川大の出身は名門のPL学園だ。高校時代は2年夏に大阪大会5本塁打をマーク。世代屈指の右のスラッガーとして注目され、ドラフト2位指名で中日に入団する。PL学園の大先輩である立浪和義の背番号3番を継承し、「立浪2世」を期待される華々しいプロ入りを飾った。しかし、4年目オフに突然の戦力外通告を下される。

名門校出身のドラフト上位選手としては早すぎる退団である。4年間で目立った実績があったわけではないが、2年目からは3年続けて一軍出場を果たしており、当時はまさか整理の対象となるとは、全く予想されていなかった。退団の理由は様々な憶測を呼び、真偽は定かではないが、練習に取り組む姿勢などに問題があり、谷繁元信監督の逆鱗に触れたと報じられている。

幸い、中日退団後すぐに巨人入りが決定した。巨人では移籍1年目から代走・守備固めを中心に過去最多の47試合出場を果たす。打撃でも60打席で14安打、打率.250とまずまずの成績を残した。続く2016年も50試合に出場。中日時代よりも出番が増え、新天地で充実したプロ野球生活のスタートを切っていた。

だが、移籍3年目の2017年に再び逆境が訪れる。プロ7年目にしてルーキー年以来の一軍出場ゼロ。二軍でもドラフト1位ルーキーの吉川尚の方が出場機会が多く、控えに回ることも少なくなかった。

「逆転のPL」の血を受け継ぐ最後のPL戦士

中日では「立浪2世」を期待され将来のスター候補だった吉川大も、巨人移籍後はなんでもこなすユーティリティープレーヤーに活路を見出している。二・三・遊の内野3ポジションを高いレベルで守り、外野守備に就くこともある。足では今季チーム3位タイの5盗塁をマークし、未だ盗塁失敗はゼロ。警戒される場面でもしっかり決める盗塁技術の高さを見せている。

前述の6日広島戦では、高橋由伸監督から「勝負としては大きく左右した」と吉川大の活躍を評価。好投したエース菅野智之も「いつもすごく準備している」と、ベンチから集中力を高めている姿を褒めていたという。今や「練習態度」が問題になった中日時代のイメージは、完全に払拭されたといっていいだろう。

近年の強い時期の巨人には、常に優秀なスーパーサブの存在があった。2007~2009年の3連覇には捕手を含め全ポジション守れる木村拓也がいて、2012~2014年の三連覇のときは、鈴木尚広が代走のスペシャリストとして、試合終盤相手に猛烈なプレッシャーをかけていた。内外野を守り、俊足も武器の吉川大は、2人の長所をかけ合わせたようなプレーヤーになれる可能性を秘めているのではないだろうか。

現在活動休止中のPL学園野球部は、吉川大2年時の夏が最後の甲子園出場となっている。プロ野球選手の輩出も、今のところ吉川大が最後だ。かつて甲子園で何度も逆転劇を見せ、終盤で試合をひっくり返す粘り強さから「逆転のPL」という言葉を生んだPL学園。その血を受け継ぐ最後のPL戦士が、8年目のシーズンで逆襲をかける。