「全てを吸収するつもりで」
若手育成で定評がある埼玉西武からまた一人、若獅子が雄叫びを上げようとしている。
日大藤沢高から今年で入団5年目を迎える金子一輝だ。
5月9日現在、打率3割3分3厘、イースタン・リーグ個人打撃成績3位。過去4年間の最高が2015年の2割3分3厘だからいきなりの覚醒である。
いったい何が起こっているのか本人に聞いた。
「自主トレから取り組んできたことをシーズンが始まっても引き続きやっているので、それがしっかり自分の形としてハマって来ているので結果も出ているのかなって思います」
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一昨年のオフから金子一は、秋山翔吾の自主トレに帯同している。今オフで2回目。
「今年は本当に一から些細なことまで聞こうと決めていました。自分の中では全てを吸収するつもりで行ったので…。こっちに帰って来てからも秋山さんとは一緒に練習をさせてもらったんですけど、その中で、いつもと違う感覚と言うのが自分の中に出てきたんです。それが今年はしっかり自分の中にあるので、結果にも繋がっているのかなと思います。そこが昨年と一番違うところですね」
「右手を添えるだけ」にしたら
実は昨年のこの時期も金子は打率3割を越え、好調なスタートを切っていた。しかし、年間をとおした体力の消耗を気にするあまり、バットを振る量を自分でセーブ。その結果、シーズン中盤からバットが振れなくなっていた。彼が話を続ける。
「今年はキャンプからずっと同じ量を振っていますし、疲労の部分も意識して、これまでよりしっかり栄養をとるようにしていますし、そこは今年全く問題ないですね」
毎日の日課として必ず決めていることがある。 それは秋山翔吾との自主トレでも続けてきた数種類のティー打撃だ。それを1日計300球、必ず練習終りにするように心がけている。
連続ティー、下半身を使って拾うティー、背中方向から投げてもらうティー、バランスボールに乗って打つティーなど、メニューは様々。
「それを毎日続けているのもフォームが固まった理由のひとつだと自分では思うんです」
さらに静岡下田市での自主トレから、こちら(埼玉)に帰って来てから、秋山からもらったある助言が彼のバッティングを伸ばす大きなヒントとなった。
「今まで右手(押し手)を意識してバッティングをしていたんですけど、やっぱり右投右打の選手だと、右手の力が強くなるじゃないですか。そこで引っかけてしまったり凡打に終わるケースがこれまでは多かったんですね。そこで秋山さんから左手(引き手)を、もう少し意識してみたらどうかって言ってもらったので、そこからは右手を本当に添えるだけ、そのイメージで打ちだしたら、そこから右方向に強い打球が飛ぶようにもなりました。その分、ミスショットも減りましたし、それが直接、今の打率にも繋がっているのかなって思いますね」
「どこかでチャンスは来る」
4月24日にメットライフドームで行われたイースタン・リーグ(横浜DeNA戦)では、昨年一軍で10勝を挙げている濱口遥大の外寄り低めの難しい変化球を拾い上げて、センター右へ打ち返すと、快足を飛ばして2塁打にした。
今季、イースタン・リーグでの本塁打数は0だが、その分、足でかき回す。これが自分の生きる道だと言わんばかりだ。
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2018年のシーズン初め、金子一は、二軍打撃コーチ兼外野守備走塁コーチの赤田将吾に、あることを願い出た。
「もっと自分を走らせてください」
グリーンライト(ベンチからのサインではなく、自分判断で盗塁を認めるというもの)の許可である。赤田も、彼の心意気を感じ、それを認めた。
すると、金子一は水を得た魚のように塁上をかき回す。
過去4年間のイースタン・リーグでの盗塁数は10。過去最高でも2016年の6だったのが、今年は開幕からの約2カ月で盗塁9、イースタン・リーグトップを走っている。
それでもまだ一軍は遠い。シーズン32試合を終えた時点で埼玉西武は23勝9敗、貯金14を作って、パ・リーグ首位。2軍で結果を残した若手がいるからといって、即1軍に呼ばれるほど甘くない。「2軍は2軍、1軍は1軍」と考えられるのがプロの世界だ。それでも金子一は前を向く。
「どこかでチャンスは来ると思うので、今の好調をとにかく続けることが大事だと思っています。いつ呼ばれてもいい状況を自分で作ると言いますか、今年、プロ5年目で自分が置かれている状況は分かっているつもりなので、まずは1軍に上がることを目標に、ただ頑張るだけです」
1軍デビューまであと一歩。金子一輝の挑戦は続く。