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「代打・鵜久森」に沸いた松山坊っちゃんスタジアム

2018 5/8 08:00勝田聡
坊っちゃんスタジアム,Ⓒ勝田聡
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Ⓒ勝田聡

阪神ファンのユニフォームに関する謎

2016年・2017年シーズンと神宮球場でのホームゲームは全試合観戦した。東京ドームや横浜スタジアムなど東京近郊で行われるビジターでの試合も数試合ではあるが、足を運んでいる。にも関わらず、ヤクルトのお膝元と言ってもいい松山での試合には訪れたことがなかった。

元来、贔屓チームの遠征が好きではないことがその理由のひとつだろう。雨天中止や負けたときの悲壮感など、多くのマイナス面が頭をよぎるからだ。しかし、年齢を重ねたからなのか、それとも単純な興味なのかはわからないが、4月頭には航空券と宿泊する宿、そしてチケットを抑えていた。宿は四国四商の一角である松山商業高のすぐそばだ。

2連戦の初日は朝から雨。その日に日本中を駆け巡った衣笠祥雄氏の訃報に涙するかのような強い雨足。試合開始までに上がる見込みはなく、15時には試合中止が決まっていた。このような中止がイヤで今まで遠征を避けてきたはずだが、不思議となにも感じなかった。

ロープウェイからの風景

Ⓒ勝田聡

 

明くる朝は雨も上がり、風はあるものの天候自体は悪くない。試合開始までに松山城を訪れるなどの観光にはもってこいの気候だ。これも遠征の醍醐味なのだろう。観戦グッズを身につけ松山城へと足を運ぶ。観光名所でもある松山城には多くの野球ファンの姿が見えた。阪神ファン、ヤクルトファンまさに呉越同舟となりロープウェイで市街地から城を目指す。

服装、かばん、身につけているグッズ──こういったもので他人ではあるが、同じ野球ファンとわかる瞬間がある。違うチームのファンであっても一種の親近感は湧いてくる。この日は(も)阪神ファンのほうがやはり多く、その存在感も際立っていた。これは松山に限ったことではないと思うが、阪神ファンはユニフォームに刺繍する人が多い。球場に足を運んだことがあるファンなら理解できると思うが、いかにも「タイガース」といったアレだ。なぜか阪神ファンに多い。理由はわからないけれども。

松山商と済美高はご近所だった

正岡子規の句が刻まれた石碑

Ⓒ勝田聡

 

松山城を後にし、松山市駅へ直行。試合開始2時間前くらいだろうか。坊っちゃんスタジアムへ向かうバスに乗り込んだ。途中のバス停で「済美高前」があり、以外にも松山商と済美高はこんなにも近いのか。などと考えているうちにスタジアムへ到着。初めて訪れる球場ということもあり、あたりを散策してから球場内へ入る。正岡子規の句が刻まれた石碑もそこにはあった。

坊っちゃんスタジアム

Ⓒ勝田聡

 

見える景色が違う──あたりまえではあるが、ホームゲームとはいえ球場が違うことで、一塁側から見える景色が違うのだ。神宮球場では、日本青年館、建設中の国立競技場が見えるが、ここではもちろんそういったものは見えない。見えるのは山をはじめとした自然だった。

風が強く、スコアボード上の国旗がなびいているなかでの試合。阪神先発はエースのランディ・メッセンジャーということもあり、淡々と試合は進む。9回表までで1-4とヤクルトは3点のビハインド。ここまでに、本塁打はなく目立った動きはない。このまま負けると見どころのない試合に終わってしまう。

「西浦、出塁しろ」という願い

しかし、最終回にドラマはあった。

1死後にウラディミール・バレンティンが安打で出塁。続く雄平は凡退しあとひとり。バッターボックスには、この日ノーヒットの西浦直亨。そしてネクストバッターズサークルには地元である済美高出身の鵜久森淳志。ネクストに「91」の背番号が見えた瞬間、ライトスタンド、そして一塁側の内野席はざわついた。この日一番の願いだっただろう。

「西浦、出塁しろ」

と多くのファンが思い、口に出した。

もし、日本人投手であれば「空気を読む」いや、今風に言えば「忖度」することがあってもおかしくない(おかしい)場面だが、阪神のマウンドには守護神のラファエル・ドリス。鵜久森の出身地など知らないであろうし、興味もないだろう。

しかし、念が通じたのだろうか。ドリスは西浦に対して死球を与えてしまう。

坊っちゃんスタジアムに出囃子である嵐の『心の空』が流れ鵜久森の名前がコールされるとスタジアムは大歓声。その余韻が残ったまま、ドリスの投じた初球を右翼へとはじき返し、みごと役割を果たす。代走が送られ試合から退いたが、球場全体の盛り上がりが最高潮に達した瞬間だった。

続く打者であるルーキーの松本直樹には、昨シーズン、松山の試合でサヨナラ本塁打を放った荒木貴裕が代打で起用される。一発が出れば逆転サヨナラ。そんな、ドラマがあるのだろうか?と考える間もなく初球を遊ゴロ。人生はそんなに甘くなかった。

負けはしたものの、鵜久森で盛り上がり、荒木で期待感が最高潮。神宮球場以外の試合もたまには悪くない。そんな松山遠征だった。