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西武”サンデーウルフ”は38歳の今が「全盛期」。パ1位のゴロ率60%、魅惑の投球術

2018 4/15 12:56永田遼太郎
ブライアン・ウルフ 2017年球種別投球割合
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打たせて取る省エネ投球

守る時間を出来るだけ短く――。
埼玉西武・ブライアン・ウルフが心がけていることである。2017年の打者一人当たりの平均投球数は3.68球。同4月30日の千葉ロッテ戦では7回をわずか69球、1イニング平均にすると10球にも満たない省エネ投球で2安打無失点に抑えた。

この日は21個のアウト中、ゴロアウトが14個を数えた。力で相手をねじ伏せるのではなく、ベテラン投手らしい相手打者の芯を外す頭脳派の投球。球界屈指のグラウンドボーラーとして知られ、昨シーズンは100イニング以上投げたパ・リーグ投手では唯一、ゴロ率が60%を越えた。

その投球術を支えているのが、相手打者に考える暇を与えない投球テンポと、昨年は2つの球種で90%以上を占めていたツーシームとパワーカーブのコンビネーションである。シュート回転しながらわずかに沈むツーシームは、ウルフの生命線とも言えるボールで、ゴロアウトを奪う大半がこれである。

一方でパワーカーブはグニャリと大きな曲がりを持つのが特徴で、19.3%の高い空振り率を誇っており、昨年、彼が奪った三振74個中、約6割はこのボールから奪ったものだった。

カウント球としても、決め球として使える一撃必殺のボールが2種類。球種が多い方が良いとされるプロの先発投手ではあるが、ウルフはそうした声にまるで反論するかのように、少ない球種を絶対的なボールにまで進化させている。チームメイト達が彼のスタイルを称賛し、尊敬しているのも頷けるというものだ。

カットボールの本格解禁

そんなウルフの投球スタイルに今季、わずかな変化が起きようとしている。カットボールの本格解禁だ。

昨年までも投げるには投げていたボールだが、2014年にトミージョン手術した右肘への負担も考えて、多投しては来なかった。

2017年は23試合中、右打者に59球、左打者に74球と全投球割合の7%だったボールだが、今季投げたここまでの2試合を見ると、ツーシームの割合が減り、変わってカットボールの割合が増えてきたのが、図からも見て取れる。

球種別投球割合

 

なかでも注視したいのが、対右打者に対するデータだ。ツーシームは昨年比で20%と大幅減少し、その分、カットボールに割合が流れている。2つの球種でさえ相手打線は手を焼いていたというのに、今年はさらにもう1球増えたのだから開幕から最低でもこの1カ月間は対戦する各球団とも頭を悩ませそうなデータではある。と、同時に西武ファンにとってはなんとも心強い。

サンデーウルフは今年も健在

実際、今年のウルフは昨年以上に安定した投球を続けている。ここまで投げた2試合で12回、自責点2。与えた四死球はわずか1と制球力と投球術に磨きをかけ、首脳陣の信頼も高い。球数も今季初登板の北海道日本ハム戦が6回93球で、前回のオリックス戦が6回74球、と少ない球数で打たせて取るスタイルは昨年と変わらない。打者一人当たりの平均球数も3.63と昨年よりやや減少している。

昨年、日曜日に19試合投げて9勝3敗、防御率2.95だった曜日の相性の良さは今年も健在だ。投げた2試合はいずれも日曜日でチームが勝利。「サンデーウルフ」の愛称もファンの間で浸透しつつある。

今季の埼玉西武は、牧田和久と野上亮磨といったチームの主力投手がFA移籍したことにより、投手力を危惧する声が開幕前に囁かれた。しかし、ふたを開けると昨年の最多勝と最優秀防御率の二冠を達成した菊池雄星を中心に、多和田真三郎、十亀剣、ファビオ・カスティーヨ、そしてウルフを加えた5本の柱が回転して、開幕から8連勝を記録するなど現在パ・リーグの首位を走っている。

今後を占う意味においてもウルフがキーパーソンになることは間違いない。今年で日本球界9年目38歳。今、まさに彼は全盛期を迎えようとしている。