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一打席、一振りを大切に! 期待のヒットメーカーDeNA・楠本泰史

2018 4/6 17:00永田遼太郎
楠本泰史横浜DeNAベイスターズ,ⒸYoshihiro KOIKE
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ⒸYoshihiro KOIKE

2017年ドラフト8位で横浜DeNAベイスターズに入団

死球、四球と続いてまた死球を受けた。開幕3連戦は全て代打で出場しながら打数は増えず0のまま。打率---、だが出塁率は10割。

今年、横浜DeNAにドラフト8位で入団した楠本泰史は、とても珍奇な形でプロのキャリアをスタートした。埼玉県の花咲徳栄高から東北福祉大へ進んで、仙台六大学野球では通算99本のヒットを放った。

大学日本代表に初めて召集されたのは3年時のときで、チームメイトには田中正義(現・ソフトバンク)や佐々木千隼(現・ロッテ)といった後にドラフトで話題になるスターがいた。4年時の夏に参加した日米大学選手権では打率.389をマークし首位打者を獲得。その後行われた第29回ユニバーシアード競技大会でも全7試合で4番を務め、決勝のアメリカ戦では4打数2安打3打点の活躍を見せて、主砲の役割を果たす。柔らかいバットコントロールが持ち味のヒットメーカー。それが大学時代の楠本泰史という選手だった。

オープン戦で猛アピール! 開幕一軍入りを果たす

しかし、昨秋のプロ野球ドラフト会議では支配下選手指名の82選手中81番目となる厳しい評価を受けた。

「最後は指名されるか不安もあった」と語る楠本。

それでも、プロに入ってしまえば指名順は関係ないとばかりにキャンプ、オープン戦では結果を残し続けた。2月23日に行われた韓国・起亜タイガースとの練習試合では、9回にバックスクリーン右に飛び込むサヨナラ2ラン、翌日(24日)のオープン戦では巨人の左腕・戸根千秋から右翼席に運ぶ連日の一発。左右に打ち分けるシュアなバッティングだけでなく、非凡な長打力も秘めていることを首脳陣に猛アピールして、横浜DeNA・アレックス・ラミレス監督を喜ばせた。

オープン戦成績は15打数8安打、打率・533。前述の出塁率1.000の件も含めて、とにかくファンの目を惹き、話題となる選手だ。

厳しい外野枠争いにも競り勝って開幕一軍入りを果たすと、彼は表情を一段と引き締めてこう言った。

「毎日少しずつでも良いので野球が上手くなるためにできることを必死で考えて、知恵を絞って過ごしていきたいと思います」

ルーティンを大切にして試合に臨む

その言葉どおり試合前の楠本の打撃練習を見ていると、とてもルーキーとは思えない周到な準備に驚かされる。

まずはバックネット前のティー打撃だ。自身が決めた規則的なメニューをこなし、その日の体の状態を毎試合チェックしている。引き手の手首や肘の使い方を意識したワンハンドティー、ホームベースとの向きと自分の立ち位置を変えて、内、外角の打ち分けを意識したティー、仕上げは体のキレをだすように連続ティーを行ってからフリー打撃用のバッティングゲージへと向かう。

その理由について楠本は次のように語った。

「自分が試合に入るためのルーティンと言いますか、毎試合同じことをすることによって、今日は体の調子がちょっと違うなとか、感覚の違いを確認しています。その点をしっかり準備してから試合に臨みたいなと」

社会人の日本生命から今年プロ入りし、開幕スタメン入りを果たした神里和毅の実力には一目置いている。しかし、指をくわえて順番を待つようなことは勿論しない。いつ自分の名前が呼ばれてもいいように、打席に入る前の準備にも人一倍のこだわりを見せる。

たとえばネクストバッターズサークルで準備をする際も、両脇にストレッチを入れたり、様々なルーティンを取り入れるなど工夫を凝らしているのが見て取れる。その一つ一つが、彼の持ち味であるバットを柔らかく使う準備であり、確認作業でもある。彼のいう知恵を絞ってとはそういうことだ。

プロで活躍した大塚光二監督との出会い

楠本は過去の自分を振り返りながらこうも言う。

「高校時代はただ試合で必死にやることだけを考えていました。今みたいに色々なことを考えるようになったのは大学になってからです。そこから準備なども凄く大切にするようになりました」

東北福祉大学でプロでの実績もある大塚光二監督と出会ったのも大きかった。

「(バッティングの)感覚に関しては、高校の時とあまり変わってはいないと思うんですけど、モノの考え方については、大学に行ってから凄く変わりましたね。たとえば物事が上手く行っていないときに、いかにスイッチを入れ替えるか。僕はそこが上手く出来ない方だったので、スイッチのオンとオフもそうですけど、上手くいかないときの頭の切り替えを大塚監督と出会って出来るようになりました」

好不調の波を小さくするのもプロで成功する秘訣である。現役時代、西武で活躍し、引退後は北海道日本ハムで外野守備走塁コーチとして指導者経験もしている東北福祉大・大塚監督の言葉はどれも金言で、楠本の胸に今もしっかり刻み込まれている。

一打席、一振りを大切に

3月17日からの一週間、ファームの試合にも出場して試合経験を積んだ。初戦となった浦安市運動公園野球場での対千葉ロッテ戦。マウンドには大学日本代表でも一緒になった一つ上の先輩・佐々木千隼が立っていた。

一打席目は3球目の変化球をとらえてライト前ヒット、二打席目は4球目のストレートを叩いてレフトへの二塁打。自分の持ち味をフルに発揮した。

「佐々木さんは本当に凄いピッチャーなので、狙って仕留められたというよりも本当にたまたまが続いたような感じだったので…。ただ、一軍に行けばあのようなレベルの高いピッチャーばかりでしょうし、そうした凄いピッチャーをどう打っていくかが今後の課題だとも思っているので、今後はたまたまで終わらせないように、偶然ではなく必然になれるよう、しっかり考えて練習を続けていきたいなと思っています」

この日、佐々木から打ったチームの総安打数は3本だった。そのうち2本が楠本によるものだ。それでも浮かれることなく自分を俯瞰的にとらえているのが彼の長所ともいえる。常に課題を持って前進することを止めない。この意識が続く限り、彼は今後どんどん自分の名前を世に広めていくことだろう。取材の最後に彼はこんなことも言っていた。

「ファームでフォームを作るとか調整とか言っている立場ではないので、一軍でもファームでもやっていることは変わらないですし、目の前の試合のワンプレーを本当に必死になってやることが今の僕に求められていることだと思っています。どこにいても一打席、一振りを大切にし、必死にやって、結果を残すことだけを考えて。今はそれだけかなって思っています」

DeNAにまたひとり頼もしい若手が加わった。