打てる捕手の減少
2017年シーズンにおいて規定打席に到達した捕手は、小林誠司選手(巨人)、中村悠平選手(ヤクルト)のふたりだけ。日本一に輝いたソフトバンクは甲斐拓也選手、高谷裕亮選手、鶴岡慎也選手らを併用。
そのなかで、甲斐選手は規定打席に到達しなかったものの、ベストナイン・ゴールデングラブ賞を受賞。完全なるレギュラーではなかったが、アジアプロ野球チャンピオンシップ日本代表に選出されるなど飛躍のシーズンとなった。
確固たる正捕手が不在となっている理由のひとつに、『打てる捕手』の不在が挙げられる。古くは野村克也選手(元・南海他)、田淵幸一選手(元・阪神他)、近年でも古田敦也選手(元・ヤクルト)、城島健司選手(元・ソフトバンク他)、阿部慎之助選手(巨人)らが『打てる捕手』としてチームを引っ張っていた。
しかし、阿部選手以降でこのような捕手は見当たらない。そのため正捕手を固定せず、先発投手との相性を考慮するなど併用するようになったといえるだろう。
また捕手でありながら打撃面で優れている選手は、その他のポジションへとコンバートされることも増えている。
現役選手では岡島豪郎選手、銀次選手(ともに楽天)、中谷将大選手(阪神)、福田永将選手(中日)らがそうだ。その他の捕手との兼ね合いもあるが、守備の負担を減らし、打撃に専念できるようにとの思惑も当然あるだろう。
このような理由もあり『打てる捕手』が体感的に減ったように思えるのはたしかだが、実際にはどうなっているのだろうか。そこで、2017年と2008年の先発捕手による打撃成績を比べてみた。
ちなみに2008年は矢野燿大選手(阪神)、阿部選手(巨人)、石原慶幸選手(広島)、日高剛選手(オリックス)、細川亨選手(西武)と5人が規定打席に到達した年でもある。
球界全体では2008年から全項目で数値が下降
12球団の合計値を見ると、打率・本塁打・打点の打撃3部門、さらには、出塁率・長打率・OPS(出塁率+長打率)の全ての数値において2008年から下降している。
球界全体で捕手の打撃力が低下しているということがわかるデータだ。また打席数も2008年の6116打席から5623打席へと減少。
これは、試合終盤に代打を送られるなどのケースが増えたことを意味しているといえる。
とくに顕著なのは本塁打数の減少だ。2008年にプロ野球全体で生まれた本塁打は1480本。対する2017年シーズンは1500本となっている。
ボールの違いなどで本塁打数は毎年変動するが、この両年に限ってはほぼ同じだった。しかし、先発捕手の本塁打数は116本から66本へとなり約57%となっているのだ。
また、2008年は巨人・広島・西武・ロッテ・オリックスと5球団で先発捕手による合計本塁打が2桁に到達したが、2017年はDeNA(11本)のみ。
また、長打率を比べてみても数値が向上したのはDeNA(.021)、ソフトバンク(.077)の2球団となっている。
併用ながら打撃で結果を残した2008年のロッテ
球団ごとにみると、巨人・ロッテ・オリックスの3球団が全項目において数値が下がっている。巨人は阿部選手から小林選手に正捕手が移行しており、その影響が数値に表れているといえるだろう。
また、ロッテは2008年も里崎智也選手(66試合)、橋本将選手(65試合)をメインとしながら併用制を敷いていた。そのなかで両選手ともに打撃で結果を残していた希有な例でもある。
多くの球団が数値を悪化させている中で、打率・本塁打・打点・出塁率・長打率・OPSその全てを上昇させたのがソフトバンクだ。2008年は高谷選手(57試合)、山崎勝己選手(39試合)、的山哲也選手(30試合)、田上秀則選手(18試合)がスタメンマスクをかぶったものの、先発捕手時の打率は12球団で唯一、2割に届かなかった。
しかし、2017年には甲斐選手、高谷選手らでわずかではあるが、12球団先発捕手の打率.217を越える打率.222を記録した。ソフトバンク内において、その他の打者に比べると捕手の打撃は物足りないかもしれないが、他球団の捕手と比べると平均以上の成績を残している。
これが、日本一になったひとつの要因と言えるかもしれない。
このように球団ごとの数値を見ると、成績が向上している部分もあるが、概ね成績は下降しているとみていいだろう。
近い将来には『打てる捕手』が誕生する可能性も
前章までのとおり、各球団先発捕手の成績を見ると、2009年から2017年の間に大きく下降していることがわかった。しかし、暗い話題ばかりではない。
2017年シーズンに二軍ではあるが、ルーキー捕手の坂倉将吾選手(広島)がウエスタンリーグの優秀賞、新人賞、期待賞、ビッグホープ賞と4冠を達成。ファーム日本選手権では勝負を決める逆転スリーラン本塁打を放つなど、インパクトも残した。数年後には一軍での活躍が見込まれている。
また、2017年のドラフトでは中村奨成選手(広陵高→広島)、村上宗隆選手(九州学院高→ヤクルト)と2名の捕手がドラフト1位で指名された。どちらも打撃型の捕手として期待されており、今後が楽しみな存在でもある。
もちろん、チーム事情によりコンバートの可能性もあるが、『打てる捕手』として一軍で活躍する姿をみせてもらいたい。