その飛距離はチーム1?梶谷隆幸はなぜあれだけ飛ばせるのか
一見ホームランバッターのようには見えず、実際にシーズンの本塁打数も20本にも満たない。それなのに1本1本の飛距離は他の誰にも負けない、横浜DeNAベイスターズの梶谷隆幸選手のホームラン。なぜあれほどまでに飛距離が出るのだろうか。
2013年に残した成績は.346(254ー88) 16本塁打 44打点 7盗塁というものだ。この年は4月に2塁守備での不調もあったため、一軍に定着したのは7月ごろであった。だがなんと、そこから77試合だけでこれだけの成績を残したのだ。もしフル出場したら一体どんな成績を残すのだろう。ファンの中には「トリプルスリーも夢じゃない」そんな期待を持った方も多いのではないだろうか。
だが梶谷選手は、我々が思い描いたものとは全く違う成長を遂げた。打率は2割7分前後で三振も多く「とにかく、チーム内で1番飛ばすんじゃないか?」というほど飛距離のあるホームランを打つようになった。日本を代表するスラッガーである筒香嘉智選手と比べても、飛距離は負けていないのではないだろう。軽く振っているように見えながら、ライトスタンドの上段まで運ぶことも珍しくはない。
2015年の8月には、場外ホームランも記録している。2017年から導入されたトラックマンによれば、ホームラン時の打球速度は170㎞/hを越えていたそうだ。いったい梶谷選手の飛距離にはどのような秘密があるのだろうか。
軽いスイングで飛距離を出す秘密とは
何故あれほどの飛距離を出すことができるのだろう。まずはスイングから見ていこう。梶谷選手のスイングは、いわゆるアッパースイングだ。打球を下からたたいて、打ち上げるためのスイングをしている。そのためゴロよりもフライが上がることが多く、ボールを遠くまで飛ばすにはもってこいのスイングだろう。
しかし、大振りではなくコンパクトなスイングであることも特徴で、力を入れて振っているようには思えない。フォームもシンプルであり、足を高く上げて反動を利用しているわけでもないのに、あれだけの飛距離が出せることが不思議である。
ウエイトトレーニングで強靭なフィジカルが
梶谷選手は2011年のオフに、広島市内のジム「アスリート」でトレーニングを積んだようだ。「アスリート」といえば、阪神タイガースの金本知憲監督をはじめとして、多くの一流選手に始動を行ったジムだ。パリーグで三冠王を狙っている柳田悠岐選手も、大学入学前にアスリートでトレーニングを行い、大幅に飛距離を伸ばしたという。
梶谷選手もシーズンオフにこのジムに通い体を鍛え、72~73kgほどだった体重も80kgまで増加。その一方で体脂肪率を9%から8%に減らすなど、徹底的に鍛え抜いたのだ。その結果、2012年には2本塁打、ブレイクを果たした2013年には16本塁打を放つなどし、確実にその成果が成績に表れている。
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だがそれだけではなく、梶谷選手の筋肉はかなり質の良い筋肉をしているらしい。梶谷選手は少ない筋肉量でも、かなりのパワーを発揮することができる筋肉だそうだ。極端にいえば、体重80kgほどでも、体重90kgや100kgの選手と同じだけのパワーを発揮することができるということだ。筋肉が少ない分、スピードのロスもほとんど無い。2014年に盗塁王を獲得できたのも、梶谷選手だからこそなのだろう。
力みはなくともしっかりと強く降るバッティングスタイル
また梶谷選手のバッティングスタイルにも注目してみよう。梶谷選手は、当てに行くようなバッティングは絶対にしない。どんなボールでもしっかりと強く振り抜くことを心がけている。鍛え抜かれた体からくり出される力強いスイング。力が入っていないように見えても、しっかりと強いスイングをしているのだ。
シンプルであるが、これこそがあの飛距離の秘密だろう。三振の数が非常に多くなってしまうというデメリットもあるが、これを気にし過ぎてしてしまうと、梶谷選手の良さまでなくなってしまう。
規定打席に到達した3年を見てみると、2014年は135三振(142試合609打席)、2015年は132三振(134試合578打席)、2016年も110三振(107試合450打席)だ。3年連続で100三振以上を喫している。面白いことにスイングに力みがない分、はたから見ればやる気の無いようなスイングに見えることも多い。
そしてもちろん、そういった印象をファンに与えてしまっていることも梶谷選手は知っている。だが、梶谷選手がこのスタイルを変えることはないだろう。
周囲の声を気にしない心の強さも重要
梶谷選手は自身でも語っているように、もともとそれほど器用な選手ではない。そのため三振を少なくしようと思えばできるかもしれないし、当てるバッティングをすれば、それなりに内野安打が増え打率は上がっていくだろう。
しかし、それでは持ち前の長打力を発揮する場面が減ってしまい、相手打者からしても当てるだけの選手にそれほどプレッシャーは感じないだろう。鍛えられた下半身(足)と長打力が備わっているからこそ、相手にプレッシャーを与えることができるのだ。
周りの声を気にしすぎて自分のスイングができなくなってしまえば、当然結果を出すことはできなくなる。このように自分を貫く「強さ」を持っているのも、梶谷選手の魅力の1つだ。
今後も大きなホームランに期待
梶谷選手があれだけの飛距離を出すことができるのは、鍛え抜かれた体にコンパクトながら力強いスイング、そしてそのスタイルを貫く心の強さ、これら全てがあるからだろう。
2016年シーズン、ベイスターズにとって初めてとなるクライマックスシリーズで、梶谷選手は1stシリーズの四球で左手薬指を骨折してしまう。しかし、そんな状態でも梶谷選手は試合に出場し続けた。ファイナルステージに進出すると、第2戦ではマルチヒット、第3戦ではライトへのファールフライをダイビングキャッチと大活躍すると、なんと第4戦ではホームランまで放ってしまったのだ。
周囲は梶谷選手にトリプルスリーを期待するかもしれない。もちろん、それだけのポテンシャルは十分に持っているだろう。しかし、梶谷選手には梶谷選手のスタイルがあるため、たとえホームランが20本前後でも試合の流れを変えるような、相手の心ごと打ち砕いてしまうような、「大きなホームラン」を期待したい。