無風に近いドラフト1位指名
前年(2007年)の高校生ドラフトでは中田翔選手(大阪桐蔭高→日本ハム)、唐川侑己選手(成田高→ロッテ)、佐藤由規選手(仙台育英高→ヤクルト)と「高校ビッグ3」が注目を浴びていた。同様に大学生・社会人ドラフトでも大場翔太選手(東洋大→ソフトバンク)、長谷部康平選手(愛知工業大→楽天)、加藤幹典選手(慶応大→ヤクルト)が人気を集め高校生、大学生共にビッグ3へ指名が集中。6選手で1位入札を独占する状況だった。
2008年は高校生、大学生・社会人の分離ドラフトが終了し統合され指名は分散。重複したのは6球団が指名した3選手だった。
松本啓二朗選手(早稲田大):横浜、阪神
大田泰示選手(東海大相模高):ソフトバンク、巨人
野本圭選手(日本通運):楽天、中日
抽選の結果松本選手は横浜、大田選手は巨人、野本選手は中日が交渉権を獲得している。
その他の6球団は一本釣りに成功
中崎雄太選手(日南学園高):西武
甲斐拓哉選手(東海大三高):オリックス
大野奨太選手(東洋大):日本ハム
木村雄太選手(東京ガス):ロッテ
岩本貴裕選手(大阪ガス):広島
赤川克典選手(宮崎商高):ヤクルト
抽選に外した3球団による再入札でも楽天と阪神が藤原紘通選手へ入札となり、再びの抽選で楽天が交渉権を獲得。阪神は2度の抽選を外す結果となり最終的に奈良産業大学の蕭一傑(しょう いっけつ)選手を指名した。
藤原紘通選手(NTT西日本):楽天
巽真悟選手(近畿大):ソフトバンク
蕭一傑選手(奈良産業大):阪神
話題を独占するような大きな目玉はおらず、1位入札において波乱も起きなかった。いや、波乱はドラフトの前に起きていたと言えるかも知れない。
社会人No.1投手・田澤選手の不在
この年、ドラフト1位として目玉候補でもあったのが田澤純一選手(新日本石油ENEOS)である。田澤選手は横浜商大高校から社会人野球の強豪・新日本石油ENEOSに進み、都市対抗野球で橋戸賞(MVP)を獲得。社会人No.1右腕として注目を浴び複数球団からの1位指名が予想されていた。
しかし、田澤選手はドラフト前の9月に記者会見を開き日本の球団を介さずに直接メジャーリーグへ挑戦する意思を表明。NPB、12球団へも指名見送りを要請する文書を送付し議論を巻き起こした。
この一件が発端となり後に「田澤ルール」と呼ばれる制度ができることにもなる。
田澤選手の意思は固いと見られ強行指名に乗り出す球団は無く、ドラフト終了から1ヶ月ほど過ぎた12月にボストン・レッドソックスと契約。セットアッパーとして実績を残し2017年シーズンからマイアミ・マーリンズへとFAへ移籍しイチロー選手と共にワールドチャンピオンを目指して戦っている。2017年の年俸は500万ドル(約5億7,000万円※1ドル114円換算)となり日本球界の中継投手では手にすることがきわめて難しい額を手にしている。
大当たりと呼べる日本ハム
この年のドラフト指名選手は2009年から現役を始め2016年で8年目のシーズンを終えたことになる。その時点ではあるが、大当たりと言えるのは日本ハムだろう。
【2008年ドラフト:日本ハムの指名】
1位:大野奨太選手(東洋大学)
2位:榊原諒選手(関西国際大学)
3位:矢貫俊之選手(三菱ふそう川崎)
4位:土屋健二選手(横浜高)
5位:中島卓也選手(福岡工業高)
6位:杉谷拳士選手(帝京高)
7位:谷元圭介選手(バイタルネット)
1位の大野選手は第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも出場するなど、併用とはいえ日本ハムの一番手捕手として扇の要としてチームに貢献。榊原選手はオリックスに移籍後、引退してしまっているが2年目に中継ぎながら二桁勝利を挙げ新人王を獲得。
矢貫選手は2013年に57試合登板を果たすなど中継ぎとしてチームに貢献、巨人移籍後の2016年シーズンに現役を引退している。土屋選手は大きな実績こそ残していないがDeNAへ移籍し2015年まで現役を続けていた。
圧巻なのは5位以降の下位指名だ。
不動の正遊撃手となった中島卓也選手、スイッチヒッターでチームの人気者である杉谷拳士選手、中継ぎエースの谷元圭介選手。そろって2016年の日本一に大きく貢献し中島選手、谷元選手は1億円プレーヤーとなった。谷元選手はドラフト前の入団テストに合格してからの指名となり叩き上げの苦労人でもある。
波瀾万丈のロッテドラフト
2008年のドラフトで最も多くの指名を行ったのが、支配下6名、育成8名の合計14名を指名したロッテだった。
【2008年ロッテ・ドラフト指名】
1位:木村雄太選手(東京ガス)
2位:長野久義選手(Honda)
3位:上野大樹選手(東洋大)
4位:坪井俊樹選手(筑波大)
5位:山本徹矢選手(神戸国際大付高)
6位:香月良仁選手(熊本ゴールデンクラークス)
<育成>
1位:木本幸広選手(日高高中津分校)
2位:鈴江彬選手(信濃グランセローズ)
3位:角晃多選手(東海大相模高)
4位:生山裕人選手(香川オリーブガイナーズ)
5位:西野勇士選手(新湊高)
6位:岡田幸文選手(全足利クラブ)
7位:吉田真史選手(太田工業高)
8位:田中崇博選手(八日市南高)
2位で巨人入りを熱望していたHondaの長野選手を強行指名するも入団拒否をされ、結果として上位指名を放棄する形となった。しかし、育成で指名した西野選手、岡田選手が支配下登録されレギュラークラスとして活躍。
西野選手は抑えとして日本代表にも選出経験があり、2017年シーズンからは先発としてローテーションを任されている。岡田選手は卓越した守備範囲の広さを売りとし守備の名手としてチームに貢献。
ドラフト2位指名選手が入団拒否となりながらも、ドラフト全体を見ると結果を残していると言えそうだ。
3位以下にも多くの有望選手が!
全体を見渡すと下位指名でも実績を残している選手が数多く存在している。その代表格がソフトバンク4位の攝津正(せっつ ただし)選手(JR東日本東北)だ。毎年、ドラフト候補として注目を浴びながら指名は無く26才となったこの年にようやく指名されたオールドルーキーだ。
ルーキーイヤーから中継ぎ投手として70試合に登板し最優秀中継投手のタイトル、新人王を受賞した。その後も先発へ転向し2015年には沢村賞を獲得するなど球界を代表する投手となっている。
その他にも浅村栄斗選手(大阪桐蔭高→西武3位)、西勇輝選手(菰野高→オリックス3位)といったチームの顔となっている選手も指名された。
ドラフト時の評価だけではわからないというのが、プロ野球の面白いところでもあるといえそうだ。