田中VS坂本、小学校時代の戦友のライバル宣言
ライバル宣言の面白さは、発言した本人と指名された当人の関係性や人間性がにじみ出ている点にある。
今や大リーグの名門ヤンキースのエースとなった田中将大選手が楽天に所属していた頃(2013年時)、ライバル宣言で指名したのは小学校時代のチームメイトである巨人の坂本勇人選手。「理由は言うまでもありません」。書かずしてもノーヒットに抑えたい意気込みがビリビリと伝わってくる、ライバルに贈る言葉としてこれ以上ないあいさつだろう。
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初夏に近づく5月末になると、プロ野球も序盤戦の佳境である交流戦にさしかかる。 セ・リーグとパ・リーグがぶつかり合うとあって、普段見られない対決があるのも魅力の一つだろう。 選手がライバル選手を指名して因縁や理由を語る「ライバル宣言」に注目してみる。
ライバル宣言の面白さは、発言した本人と指名された当人の関係性や人間性がにじみ出ている点にある。
今や大リーグの名門ヤンキースのエースとなった田中将大選手が楽天に所属していた頃(2013年時)、ライバル宣言で指名したのは小学校時代のチームメイトである巨人の坂本勇人選手。「理由は言うまでもありません」。書かずしてもノーヒットに抑えたい意気込みがビリビリと伝わってくる、ライバルに贈る言葉としてこれ以上ないあいさつだろう。
ピークを過ぎたベテラン同士の温かいやりとりが伝わるライバル宣言も見ものだ。
中日の2軍監督として活躍する小笠原道大氏のライバル宣言(2010年、巨人在籍時)は、ソフトバンクの斉藤和巳投手を指名して「復活を期待して」とのコメント。ともに2000年代前半から中盤にかけてプロ野球界を代表する打者、投手として活躍した2人なだけに、まだまだ共にプロで戦おうという決意が表れている。
ちなみに、斉藤選手は2010年は右肩の手術で登板はなく、翌年に支配下登録を解除されるなどけがに泣いた形で13年に引退。小笠原氏も中日で15年にバットを置いた。
元チームメイト同士のライバル宣言は、対抗心の中にもどこか仲の良さが垣間見える面白いコメントが散見される。
2015年にロッテからヤクルトに移籍した成瀬善久投手は、15年のライバル宣言でロッテに対して「みんな」と発言。愛着のあったチームであると同時に、敵となったチームに「勝ちます」と闘志を燃やす姿が目に浮かぶ。
また、元WBCのチームメイトというくくりでライバル宣言したのは日本ハムに在籍していた稲葉篤紀氏。引退した2014年に送った相手は巨人の内海選手で、「100勝お祝いメールを無視された」。本来の勝負とは関係のないコメントに2人の仲の良さが表れている。
続いてはちょっと変わったライバル宣言。
西武に在籍していた細川亨(ほそかわとおる)選手(2011年からソフトバンク、17年から楽天に移籍)が2010年にヤクルトの石川雅規(いしかわまさのり)選手に送ったライバル宣言は、「東北出身、同じマンションだから打たせて」。
2010年、古巣の西武で現役ラストイヤーを飾った工藤公康氏(現ソフトバンク監督)は、母校である愛工大名電高校の後輩にあたる堂上剛裕、直倫(どのうえたけひろ、なおみち)兄弟(当時はいずれも中日に在籍)に向けて「早く一人前になれ」。同じ門をくぐった者同士だからこそ言える一言なのだろう。
最後は、ライバルとして指名されるのは誰が最も多いかという点だ。
2015年のライバル宣言では、最も多くのセ・リーグの野手が指名したパ・リーグの投手は大谷翔平選手(日本ハム)。その割合は約70%というから驚きだ。球界を代表する豪速球をはじき返してヒーローになる、そんな熱意から指名が殺到したのだろう。
ちなみに、大谷選手が指名したセ・リーグの野手は高橋由伸選手(現巨人監督)、大引啓次(おおびきけいじ)選手(ヤクルト)、森野将彦選手(中日)、筒香嘉智(つつごうよしとも)選手(DeNA)、鳥谷敬(とりたにたかし)選手(阪神)、菊池涼介選手(広島)と、ベテランが中心の中にセ・リーグが誇る強打者の筒香選手や2016年の最多安打に輝いた菊池選手が入っていた。
チームの勝利と自身の成績が全てのプロの世界。毎日が真剣勝負の厳しい世界であり、選手同士激しい火花を散らしていることもライバル宣言からは読みとれるが、コメントの裏に隠れた人間関係を想像すると、敵視だけではない親交も垣間見ることができる。 セ・パ交流戦を観る際には、こうしたライバル対決にも注目してみてはいかがだろうか。