開幕投手石川に「彼にかけた」
5月25日、NPBからセ・パ両リーグとも6月19日に公式戦を開幕するアナウンスがあった。新型コロナウイルスの影響で、桜ではなく、紫陽花の季節に開幕するという未曾有の事態。当面は無観客での開催となるが、野球協約にあるシーズンの成立に必要な120試合以上の消化はできそうだ。
本来の開幕から約3カ月遅れとなり開幕投手を再考する球団もあるようだが、ヤクルトの高津臣吾新監督は当初の予定通り石川雅規を起用することを明言。ラジオでは「僕の監督1年目、彼にかけた」と発言しており、石川に対する並々ならぬ思いと信頼が伝わってくる。石川も一段と気持ちが入るだろう。
現在のヤクルトは、この石川をはじめベテラン勢がチームの中心だ。特にエースや外野陣はここ数年に渡って「世代交代」が叫ばれている。若手の突き上げが急務だが、思うように進んでいないのが実情だ。投手陣では五十嵐亮太に近藤一樹、野手では青木宣親や坂口智隆に雄平と35歳を超える選手たちが、第一線でチームを引っ張っている。
山田哲人に続き村上宗隆という球界を代表する選手が出てきたとはいえ、まだまだチームが生まれ変わったと言うまでには及ばない。投手では高橋奎二やドラフト1位の奥川恭伸、野手も中山翔太や濱田太貴といった若い有望株が出てくることが求められている。
キャプテン青木には「お前じゃなきゃ駄目だ」
ヤクルトが最下位から脱出し優勝争いに加わり、来シーズン以降も上位争いに顔を出すために「世代交代」は必須条件。高津監督や小川淳司GMもそれを理解し、数年かけてチームを改革することを考えているだろう。事実、その布石と見られる行動もある。それは、キャンプからここまで「チームの幹となる部分にベテラン勢を配置」、もしくは「配置を考えている」ところだ。
開幕投手の石川然り、昨シーズンは不在だったキャプテンに青木を指名したこともそう。青木には「お前じゃないと駄目だ」と直接電話したという。そしてキャンプ中に守護神争いを問われたときは、石山泰稚とマクガフの2人に加え五十嵐の名前も挙げていた。
高津監督は守護神の条件として「毎日投げられる体の強さ」を挙げており、五十嵐にもそれが十分可能と考えているのだ。石川、青木、五十嵐のベテラン3人へ、それぞれの形で信頼を伝えたことになる。
若手に対する檄となる
現在、石川と五十嵐は40歳でチーム最年長(五十嵐は5月28日に41歳となる)、青木は38歳で野手の最年長となる。本来であればもう少し若い選手たちが開幕投手や守護神候補、そしてキャプテンを任されるのが理想だろう。
プロ野球史上40代の開幕投手は4人しかおらず、守護神を任される例もほとんどない。またチームのキャプテンも20代から30代前半が通例だ。
今年のセ・リーグのキャプテンを見ても、ヤクルトを除くと巨人・坂本勇人の31歳が最年長である。その他、糸原健斗(阪神/27歳)、高橋周平(中日/26歳)や佐野恵太(DeNA/25歳)も20代後半で、これからのチームを引っ張っていかねばならない選手が任されている(※広島は主将不在)。
この異例ともいえる起用やコメントは、高津監督による「ここから感じ取ってほしい」といったメッセージなのではないだろうか。ベテラン勢には「まだまだ頼むぞ」という期待の高さや信頼の厚さとなり、若い選手たちには「いつまでベテランに頼っているんだ。お前らが出てこないと」といった檄となる。選手たちがそれを受け止め、発奮することでチームの底上げとなるわけだ。
今年から数年にかけ「なし崩し」ではなく、若い選手の発奮による高いレベルでの「世代交代」が起きる。その分水嶺となるシーズンが2020年だ。高津監督がそんな未来を描いているような気がしてならない。
2020年プロ野球・東京ヤクルトスワローズ記事まとめ