すでにノックやティー打撃を再開
5月に入ったというのにヤクルトはまだ1敗もしていない。もちろん球団史上初めてのことである。それなのになんだか気分が晴れない。
それはプロ野球が開幕していないからに他ならない。大逆転負けを喫した七夕の悲劇、出口の見えない16連敗、史上最悪の96敗…。ここ数年でヤクルトファンにとって悪夢と呼べるような出来事がたくさんあった。どれもこれも思い出したくない記憶ではある。
しかし、緊急事態宣言が発令されている今、改めて振り返ってみると野球が日常的に行われていたからこそ、試合があったからこそ悲しみがあったのだ、と気づく。もちろん喜びも。
試合に負ける悲しみはないけれども勝つ喜びもない。そんな閉塞感のあるなか、ヤクルト関連で明るい話題があった。球団屈指の安打製造機である川端慎吾が、腰の手術から順調に回復しているという。すでにノックを受け、ティー打撃も行っているとの報道もあった。
川端は今年の1月に腰の手術を行っており、春季キャンプは不参加だった。そのため従来どおりの日程であれば、二軍スタートが既定路線だったのである。しかし、開幕が延期になったことで時間的な猶予が生まれたわけだ。
5月11日に協議される予定の開幕日次第では、開幕から一軍入りの可能性も出てきたと見ていい。
5年前に首位打者獲得も昨季は打率1割台
今から5年前の2015年。川端は近年こそ珍しくなくなった、「攻撃的な2番打者」として首位打者を獲得し、チームを優勝に導いた。芸術的な流し打ち、右中間を鮮やかに割っていくラインドライブ性の打球、相手が嫌がり味方打者さえも溜息をつくほどのカット技術──そのどれもが天才的だった。
しかし、それ以降は故障にも悩まされ徐々に出場試合数が減少。昨シーズンは37試合(内スタメン11試合)の出場で、打率.164(61打数10安打)と苦しい成績だった。代打での成績も打率.227(22打数5安打)と川端にしては物足りない。
また、守備についたのも一塁で13試合、三塁で3試合だけである。メインポジションであったはずの三塁争いに割って入ることすらできなかった。戦力になったとは言い難い。
今シーズンも立ち位置は苦しい。高津臣吾新監督は、若き主砲の村上宗隆を三塁で起用すると至るところで明言してきた。仮に昨シーズンのように村上が一塁に回ったとしても、西浦直亨や廣岡大志らが三塁を守ることになるだろう。川端は手術明けということもあり、レギュラーの構想に入っていないとうのが実情である。
見方によっては「世代交代」とも取れる。とはいえ、川端は現在32歳だ。まだまだレギュラーとして働ける年齢であり、本人にも意地がある。昨年末に行われた契約更改後の会見では、「守りにつきたい。やっぱりサードがいい」と素直な思いを吐露していた。レギュラーを奪回したい気持ちがあるからこその言葉なのは、容易に想像がつく。
そんな川端が復帰、いや復活することでチームの厚みは増す。一塁、三塁のレギュラー争いが激しくなることはもちろん、試合終盤の代打も充実する。それだけではなく若い選手の前に立ちはだかる「壁」にもなれる。悪いことなどひとつもない。高津監督の構想を覆すようなパフォーマンスを発揮し、一軍に合流することを待ちわびている。
やはり「ガラスのプリンス」とも呼ばれた川端に二軍は似合わない。今年、二軍にいようものなら「川端、何やってんだ! 」と畠山和洋二軍打撃コーチから、厳しいツッコミが入るはずだ。
<成績>
川端慎吾(ヤクルト)
[2019年]37試合/打率.164(61打数10安打)/0本塁打/7打点
[通算]1003試合/打率.295(3418打数1009安打)/37本塁打/360打点