オープン戦は3試合に登板し無失点
ルーキーイヤーの昨季は24試合に登板。7月に1軍で初登板を果たすと、8月には月間防御率0.84をマークするなど、主に8回を任されるセットアッパーとして躍動したロッテの東妻勇輔。最速155kmの直球とキレ味抜群のスライダーを主な武器とし、即戦力に違わぬ力を発揮した。
しかし、9月に入ると毎試合のように失点を重ねるなど打ち込まれるケースが目立ち、1軍登録を抹消。良い部分と悪い部分の両方が出た1年目のシーズンだった。
飛躍が期待される今季は、オープン戦3試合に登板し無失点と安定感のある投球を披露。チームは元広島のジェイ・ジャクソンと元楽天のフランク・ハーマンといった、日本で実績のあるセットアッパーを補強したが、ここまでのところは負けず劣らずの存在感を見せている。
マウンドから伝わってくる熱い気持ちと惚れ惚れするような投げっぷりが魅力のリリーバー。そんな東妻の強みと課題を考察してみる。
高速フォークとブレーキの効いたスライダー
まず注目すべきは各球種の平均球速。直球の平均球速が約149kmであることも凄いのだが、直球の次に多く投じているフォーク(全投球の約19%)の平均球速も約140kmと速い。これは、オリックスの山本由伸(約142km)に匹敵する速さだ。
この高速フォークの被打率は.105。投球割合も多い球種なだけにこの数値は驚異的。奪空振率も約22%と高い。ルーキーイヤーであり打者も初対戦で軌道をつかめなかったということもあるだろうが、ほとんど打たれていないことには、十分自信を持っていいだろう。
また、ツーシームが約144km、カットボールが約143kmとその他の球種も軒並み速い。150kmを超える直球を軸とし、動かす球にもこれだけのスピードがあり、1イニングを全力で投げてこられれば、そう簡単には打ち崩せない。
スライダーも一級品だ。対左打者への投球割合は約2%と少ないが、対右打者への投球割合は約22%。横に大きく滑りながら落ちるブレーキのきいたスライダーは、昨季十分に通用することを証明した。
圧巻だったのは8月29日に敵地で登板した楽天戦。4対4と緊迫した状況でマウンドを託されると、先頭の和田恋はスライダー攻めで追い込み、最後も外角に逃げるスライダーで完全に腰が引けた空振り三振。次のルシアノ・フェルナンドにもスライダーで攻めて追い込むと、真ん中付近のスライダーで空振り三振。1球目のスライダーの時点でフェルナンドは体をのけぞらせており、スライダーの圧倒的なキレに終始圧倒されていた。
この回、唯一の左打者だった3人目の辰己涼介には、一転して高速フォークで攻めて追い込むと、最後は外角の直球で空振り三振を奪った。相手を完全に抑え込む圧倒的な投球は、凄まじいインパクトだった。
課題を意識しつつも、常に攻める姿勢を
課題は制球。特に、走者を背負った時に乱れるシーンが散見された。状況別の被打率をみても一目瞭然で、走者がいない時の被打率は.204と抑えているが、走者一塁のケースでは.417、走者二塁では.500、走者一三塁では.333と打ち込まれている。
これだと走者を背負った場面で投入することには躊躇せざるをえない。逆にいえば、走者を背負った場面でも自信を持ってどっしりと構えて投げられるようになれば、セットアッパーとしてもう一段上のレベルに上がれるのではないだろうか。
もうひとつの大きな課題が対右打者を苦手としていること。どのコースへの配球が多いかを表す投手ヒートマップをみると、対右打者への配球は外角が多く、打者も狙いが絞りやすいと考えられる。
右打者の外角高めへの投球割合は約24%とコース別で最も高いが、被打率は.750とかなり打ち込まれている。右打者には主に直球、スライダー、カットボールのコンビネーションで攻めているが再考の余地があるだろう。
一方、左打者に対しては、ストライクゾーンを広く使い満遍なくどのコースにも投げている。最も多投している外角高めの被打率が.200、次に多く投じている内角低めの被打率は.000と優れた数値をマークしている。
左打者には主に直球、フォーク、ツーシームのコンビネーションで攻めているが、それがハマっている形だ。テイクバックをとったあたりからのモーションが速くタイミングをとりにくいことも一因かもしれない。
東妻の強みと課題は明確だ。昨季はプロの壁にもあたり試行錯誤のシーズンだったと思うが、今季は昨季よりも落ち着いて投げられるのではないだろうか。制球力を課題に挙げたが、暴れ馬のような豪快な投げっぷりが東妻の魅力でもあり武器でもある。課題は意識しつつも、常に攻める姿勢は忘れないでほしい。
近い将来のセットアッパーの柱、さらにはクローザーをも狙える逸材であることに疑いの余地はない。
2020年プロ野球・千葉ロッテマリーンズ記事まとめ