前田健太が語った先発へのこだわり
ドジャースからツインズへ移籍した前田健太は2月13日、2020年を新天地で迎えることになった現在の心境を語った。印象的だったのは「(ツインズから)先発ピッチャーとして評価しているという言葉をくれたので、それが僕にとって一番うれしい」という言葉だ。このインタビューでは自分が先発で評価されている喜びを繰り返し語り、強いこだわりが垣間見られた。
ツインズは強打で知られるチームだ。打線にはネルソン・クルーズやエディー・ロサリオ、マックス・ケプラーなど、昨シーズン30本塁打以上を打っている選手が5人在籍している。また、今オフには15年のア・リーグMVPで、19年には37本塁打を放ったジョシュ・ドナルドソンも加わった。ただ、一方で先発投手の枚数が不足しており、前田はホセ・バリオスとジェイク・オドリッジに次ぐ3番手としてローテーションに入ることが予想されている。
「ドジャースの戦法」は搾取的?
前田が先発への強いこだわりを強調したのには理由がある。ドジャースの思惑のために、近年はシーズン終盤になるとリリーフに転向させられていたからだ。
『ドジャースの戦法』という本をご存知だろうか。ドジャースのコーチだったアル・カンパニス氏が書いた本で、1957年には日本語訳が出版された。巨人V9時代に監督を務めていた川上哲治氏が愛読し、実戦に取り入れたことでも有名である。現代の「ドジャースの戦法」は契約面も考慮しているのかもしれない。前田がシーズン終盤にリリーフに回ることになったのは、「出来高を節約するため」というのが多くの報道機関の見方だからだ。
ドジャース入団時に合意した契約は、年俸が300万ドル(約3億3000万円)と低く設定されている一方で、多くのインセンティブ(出来高)が含まれていた。これはメディカル・チェック時、前田の身体に、本人の言葉を借りれば「イレギュラーなところ」があり、ドジャースがリスクを回避するために取られた術だった。インセンティブには先発登板数やイニングに応じて支払われるものが含まれており、シーズンを通じて先発として活躍できればより多くの報酬を得ることになっていた。
デビューイヤーの16年、32試合に先発し、175.2回を投げた。年俸などの契約情報を扱う米サイトのスポトラックによると、前田が16年に受け取った総額は1125万ドル(約12億3000万円)。単純計算で約9億円を出来高で得たことになる。
しかし、17年以降は事情が変わる。17年に得た総額は725万ドル(約8億円)、18年は600万ドル(約6億6000万円)と下落し、19年は840万ドル(約9億2000万円)と増額するものの、16年ほどには達しなかった。
これはシーズン途中に怪我をしたからだろうか。違う。17年を除けば、むしろ登板回数は増えている。先述したように、シーズン後半にリリーフに回ったことにより、先発登板数やイニング数を稼げなかったためである。
一つの例として18年の成績を見てみよう。シーズン序盤、主に先発として活躍していたが、8月14日以降はすべてリリーフでの出場だったため、先発は20試合、イニングも125.1回にとどまった。結果的に18年は、39試合と今までで最も多くの試合で投げているにもかかわらず、最も出来高を得られなかったシーズンとなった。
実際のところ、ドジャースが搾取的に契約を利用したかどうかはわからないが、ポストシーズン争いをするチームにおいて、結果的に出来高を十分に得られなかった。
ツインズは前田を先発ローテーションの一人として考えているようだが、MLBのマーケットは常に流動的だ。チームがポストシーズン争いをすれば、シーズン中に他のチームから先発投手を補強することは十分ありえる。チーム事情から再びリリーフに回る可能性は大いにあるのだ。渡米時に結んだ契約は8年だった。出来高の呪縛から解放されるまで、あと4年。ただ、一つだけ言えるのは、チームが必要なときにリリーフに回れる前田の適応力は、出来高でもらえる金額以上に価値があるということだ。
※日付は現地時間