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山口俊はブルージェイズへ 投手のユーティリティー性は新トレンドになるか

2019 12/23 17:00棗和貴
ブルージェイズと基本合意に達した山口俊
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ⒸSPAIA

山口俊、ブルージェイズと基本合意

巨人からポスティングでメジャー挑戦を目指していた山口俊がトロント・ブルージェイズと基本合意に達した。報道によると契約は2年600万ドル(約6億6000万円)。今後は、メディカルチェックを経て正式契約となる。

ブルージェイズは、田中将大がいるヤンキースや筒香嘉智が先日契約したレイズなどと同じアメリカン・リーグ東地区に所属している。現在のMLBでは唯一アメリカ以外に本拠地を持つ球団であり、かつては川﨑宗則(2013-15)や青木宣親(2017)らが在籍していた。

今季の成績は67勝95敗で東地区4位と振るわなかったが、ブルージェイズの未来は明るい。ブラディミール・ゲレーロjr.やキャバン・ビジオ、ボー・ビシェットといった、いずれも球史に残る元メジャーリーガーを父に持つ二世の有望株など、楽しみな若手が多く在籍しているからだ。

山口俊のユーティリティー性 ブ軍CEOも評価

北米のメディアが報道しているように、ブルージェイズが山口俊を獲得するメリットはそのユーティリティー性にある。ブルージェイズのマーク・シャパイロCEOは、カナダのテレビ局スポーツ・ネットに出演し、次のように語った。「フリーエージェント選手のなかでも、山口にはブルペンも先発もできるという万能性がある。彼は投手陣を強化するために必要な選手の一人となるだろう」

確かに山口はNPB時代、リリーフでも先発でも十分な成績を残している。通算100セーブを記録した2012年は、60試合に登板し防御率1.74と大活躍。2014年からは先発に再転向し、巨人に移籍して3年目となる今季は、先発の柱として最多勝利(15勝)、最多奪三振(188個)、勝率(.789)の「三冠王」に輝いた。

投手のユーティリティー性は新トレンドになるか

現在のMLB においてユーティリティー・プレイヤーの存在は大きい。ツインズのマーウィン・ゴンザレスや、ダイヤモンドバックスのエドゥアルド・エスコバーなど、強いチームには必ず有能なユーティリティーがいると言っても過言ではない。彼らは内外野のほとんどのポジションを守ることができるため、限られたロースターに様々なオプションをもたらしてくれる。ゲガや不調の選手の穴を埋めることもできるし、他のレギュラーに休息を与えることもできる。

一方で、投手のユーティリティーというのはあまり耳にしない。スイングマンという、役割が一定でない(行ったり来たりする=スイングする)投手の存在はあるにはあるが、どのチームも投手の起用法に関しては確固たる分業制をとっている。

ただ、先発もリリーフもできるというユーティリティー性は、年々重要性を帯びているように思える。とくにシーズンが進むごとにその存在感は増し、例えば今季のポストシーズン、ナショナルズは先発のマックス・シャーザーとパトリック・コービンをリリーフとしても起用し、球団史上初の世界一に輝いた。また2018年のクリス・セールや2014年のマディソン・バムガーナーの活躍も記憶に新しい。だが、こういった例はMLB屈指の先発がウルトラCとして短期決戦に限りリリーフも務めたということにすぎないかもしれない。

もっと現実的な意味での投手のユーティリティーを考えてみよう。その成功例は、ドジャースの前田健太である。

ここ数年、前田健太はシーズンの前半は先発として働き、終盤に近づくにつれリリーフに配置転換されている。2019年シーズンは8月まで先発のみの出場だったが、9月になると10試合すべてがリリーフとしての登板だった。この起用法は先発数に応じたボーナスを節約するためとの見方もあるが、とにかく前田健太はドジャースの欠点であるリリーフの穴を埋める活躍を見せた。9月の防御率は3.45。不調にあえいでいたケンリー・ジャンセンに代わり、抑えを任される試合もあった。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は「前田健太の価値は、本質的にすべての試合に登板できること」と語っている。

また、前田のほか、ドリュー・ポメランツも投手のユーティリティーの成功例と言えるだろう。ジャイアンツの先発の一人として2019年シーズンをスタートさせたポメランツだったが、結果を残せず、7月にはリリーフ転向となった。ただ、転向後の登板では4試合連続で無失点と快投し、その活躍を受けてブリュワーズへとトレードする運びとなった。結局、2019年の成績は先発では18試合で防御率5.97だったのに対し、リリーフでは28試合で防御率1.88だった。

山口俊に話を戻そう。ブルージェイズは今オフにタナー・ロアークやチェイス・アンダーソンといった実績のある先発を獲得したために、山口は先発ローテーションの4番手以降を争うことが予想される。先発にしか適性を持たない投手であれば、その争いに敗れた瞬間にマイナーに落とされる可能性があるだろう。ただ、山口俊は違う。先発競争にあぶれた場合でも、あるいはチームの事情でリリーフが手薄になった場合でも、山口の存在は必要となる。また、リリーフが先発するというオープナーでも、両方の経験を持つ山口俊は使い勝手がありそうだ。

山口俊は幼いころからメジャーが夢だったという。その夢は、本人が知ってか知らずか、投手の在り方への挑戦になるかもしれない。