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アストロズによる「史上最大のスキャンダル」 今MLBで何が起きているのか

2019 11/22 17:00棗和貴
ヒューストン・アストロズのアンドリュー・ジェイ・ ヒンチⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

2017年ワールドシリーズ

2017年ワールドシリーズでのアストロズ対ドジャース。当時ドジャースに所属していたダルビッシュは、明らかにいつもの彼ではなかった。地区シリーズとリーグ優勝シリーズでは、11.1イニングを投げてわずか2点しか取られていなかったが、ワールドシリーズでは3.1イニングで8点を失った。敗戦のあとは「彼がチームに与えたダメージは途方もない」と、ドジャースファンやロサンゼルスのメディアから非難の声が上がった。

その2年後、ドジャースファンはダルビッシュに謝罪することになる。なぜならアストロズの「サイン盗み疑惑」が報道されたのだ。あるドジャースファンは、「2017年のワールドシリーズで君に起こった出来事は、間違いだった。不当に責めてしまって申し訳ない」とつぶやいた。

アストロズによる「史上最大のスキャンダル」

初めて「サイン盗み疑惑」が報道されたのは、2度目のワールドチャンピオンに挑んだアストロズが敗れてから約2週間後の11月12日。それまでにも、アストロズにはサイン盗みの疑惑や投手のクセを盗んでいるといった噂はあったが、米メディア『ジ・アスレチック』によるこの第一報は、現役メジャーリーガーの実名告発だった。

記事は、「アストロズのホーム球場であるミニッツメイド・パークのセンターからカメラで相手キャッチャーを撮り、それがベンチ裏のモニターに映されていた」「スライダーやチェンジアップなどの場合はベンチ裏のゴミ箱を叩き、投球のサインを伝達していた」と報じ、2017年当時アストロズに所属していたマイク・ファイアーズは、「あれは正しい戦い方じゃない」と発言している。また、当時ホワイトソックスに所属していたダニー・ファーカーの「キャッチャーからチェンジアップのサインが出るたび、アストロズのベンチから「バン」という音がなった」という証言も掲載している。

波紋はすぐに広がり、マスコミや野球ファンはもちろん、ダルビッシュをはじめとした現役選手もこの騒動に加わった。米CBSスポーツのキャスターは、組織ぐるみで行われたとされている今回の騒動を「近代スポーツ史上最大のスキャンダル」と表現している。

『ジ・アスレチック』の記事が出て間もなく、メジャーリーグ機構は調査を開始。報道によると、対象者にはアストロズのヒンチ監督や元GM補佐、当時コーチを務めていたアレックス・コーラ氏やアストロズの選手だったカルロス・ベルトラン氏らが含まれている。アストロズはMLBによる調査を認めたうえで、「現段階でコメントすることは適切ではない」と声明。

サイン盗みが認定された場合は億単位の罰金に加え、ドラフト指名権の剥奪などが予想される。11月19日にMLBのマンフレッド・コミッショナーは、「スポーツの尊厳に関わる事例」として徹底的な調査を行うことを明言した。

不正のうえに成り立ったドラマ

2017年夏、アストロズが本拠地とするヒューストンをハリケーン「ハービー」が襲った。500年に一度とも呼ばれたそのハリケーンにより洪水が発生し、人々の家は流され、多くの犠牲者が出た。

ヒューストン・ストロング。アストロズのユニフォームにつけられていたパッチは今でも記憶に新しい。地元の人々に勇気を与えるために戦い、最終的にワールドチャンピオンに輝いた彼らに、アストロズファンならずとも感動した人間は多かったはず。

もしそれが不正のうえに成り立っていたドラマだったとしたら……。信頼の回復が待たれる。