「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

大谷翔平の救世主? エンゼルスの新指揮官ジョー・マドンの狂気と功績

2019 11/14 11:00棗和貴
エンゼルスの新監督に就任したジョー・マドン氏Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

マドンの狂気が始まる

大谷翔平が所属するロサンゼルス・エンゼルスは、来シーズンからジョー・マドン氏を新指揮として迎え入れた。アメリカに来て3年目となる大谷にとって早くも3人目の監督となるマドン氏は、型にはまらない奇想天外な発想の持ち主として知られ、これまでの監督たちとは異質な存在だ。21世紀のエンゼルスにおける最低成績に終わった前任者のブラッド・オースマス氏はもちろんのこと、マドン氏の“師匠”であるマイク・ソーシア氏とも異なる。

マドン氏は1981年、当時エンゼルス傘下にあったシングルAのチームでコーチとしてのキャリアをスタートさせ、ソーシア政権下を含む1994年から2005年までの12年間、エンゼルスのコーチを務めた。1996年と99年にはエンゼルスの監督代行も任されている。マドン氏とエンゼルスは、言ってみれば“旧知の仲”なわけだが、エンゼルスはユーモアたっぷりな言葉でこの新監督を迎えた。

「マドンのマッドネス(狂気)が始まる」

ペンギンをクラブハウスに マドン氏の変人ぶりと功績

マドン氏と言えば、野球の現場に人間以外の生き物を持ち込んだことで有名だ。タンパベイ・レイズの監督を務めていた2013年に、チームを和まそうとクラブハウスにペンギンを連れてきた。また、カブス時代のスプリングトレーニングでも、同じような理由から今度は “本物のカブス”を招集。それは何かというと、生後10週から12週の子グマのことである。この子グマをグラウンドに放ったのである(チームのロゴに描かれているように、Cubsは日本語で子グマという意味)。

もちろん本業の野球においても、ある意味クレイジーなほどに輝かしい功績を残している。レイズ時代の2008年には球団に初のリーグ優勝をもたらし、カブス時代の2016年には、いわゆる「ヤギの呪い」を解いて、チームを108年ぶりのワールドチャンピオンへと導いた。96年と99年の監督代行時代も含め、いままでの通算勝率は.540。カブス時代に限れば勝率は.581であり、これは長いカブスの歴史において歴代3位の数字である。

常識にとらわれない発想は采配にも及び、1年間で打順を143回も入れ替えたことがある(投手は含めず)。これについて、マドン氏は次のように語っている。「私がクレイジーなことをするときは、いままでの経験や数字に基づいているんだよ」

動物を球場に持ち込むことがどういった経験や数字に基づくかはわからない。ただ、この発言があった2017年、チーム得点数はリーグで2番目という好成績だった。

大谷翔平の救世主? マドン氏「彼は何でもできる」

来シーズン、マドン氏のもとでプレーすることになる大谷翔平にとって朗報なのは、彼の型にはまらないスタイルが二刀流成功の大きな助けになるかもしれないということ。

実を言うと、マドン氏も二刀流というコンセプト自体は20年以上前から持っていた。1992年、エンゼルスのマイナーで指導していたマドン氏は、ある左投手の足が速いことに気付き、彼にバッティングや守備の練習もやらせてみたらどうかと当時のGMに提案してみたという。

結局、その考えは受け入れられなかったらしいが、マドン氏はいまだに二刀流に魅力を感じているようだ。まだ大谷が海を渡る前の2017年に「(二刀流は)未来の波」と語っており、次のような言葉も残している。「私はいつもこのコンセプトに興味を持っている」

マドン氏は才能ある若手を一流のメジャーリーガーとして育てる手腕に長けている。レイズ時代には器用さだけが売りだったベン・ゾブリストをユーティリティーとして現代野球の象徴にまで押し上げた。また、カブス時代にはハビエル・バエスの才能にいち早く気がつき、メジャーリーグで経験を積ませた。

「(大谷は)なんでもできる能力を持っている」マドン氏は、今年10月のエンゼルス監督就任会見で、大谷翔平についてこう語った。型にはまらない指導者のもと、何でもできる才能がどう開花するのか、いまから楽しみである。

マドン氏のエンゼルス愛

ジョー・マドン氏が率いるエンゼルスに期待できる理由は、これまでに見てきた、型にはまらないスタイルや輝かしい実績だけではない。最後にマドン氏の「エンゼルス愛」についても、触れておきたい。

2016年、カブスが108年ぶりにワールドシリーズを制覇したとき、マドン氏のユニフォームのポケットには、以前父親がかぶっていたエンゼルスの帽子が忍ばせてあった。カブスの優勝インタビューでエンゼルスの帽子をかぶってみせるマドン氏。いくら愛着があるとはいえ、普通の人間ならこんなことやりはしないと思うのだが…。