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新戦略が次々生み出されるMLB 2018年新出の「オープナー」とは

2018 10/14 07:00勝田聡
ピッチャー,ⒸShutterstock.com
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先発投手が1回で降板?話題の「オープナー」とは

現代野球における投手起用は、日米問わず分業制が用いられている。日本では中6日、メジャーリーグでは中4日と先発投手の登板間隔に違いはあるが、投手陣の役割分担としてはさほど違いがない。

先発投手には6-7回を最少失点で抑えることが期待され、それ以降は中継ぎ投手が状況に応じて起用される。僅差でリードしている場合には、「勝利の方程式」や「勝ちパターン」と呼ばれるセットアッパーや試合を締めくくるクローザーを起用するというのが一般的だ。

だが、今シーズンのMLBでは、その大前提を覆す起用法が話題を呼んだ。本来は「中継ぎ」として起用されている投手を先発させ、2回から本来の「先発投手」がマウンドに登りロングリリーフとして試合を作るという方法だ。

このように試合開始時に登板する中継ぎ投手のことを、試合を締めくくる「クローザー」と対比して「オープナー」と呼ぶ。今シーズン、タンパベイ・レイズが序盤からこのオープナー作戦を敢行。その後、他チームも検討、もしくは追随したのである。

「オープナー」導入のメリットとは

野球は一般的に初回に最も点が入ると言われている。実際に今シーズンのメジャーリーグでは2657点が初回に記録されており、延長を含めた全イニングの中で最多だった。メジャーリーガーといえども、先発投手にとって立ち上がりの不安というものはついて回るものなのだろう。

イニング別得点数,ⒸSPAIA

初回に得点が多い要因は打順にもある。各チームとも打順を組む際、打席がより多く回る上位打線に能力のある打者を配置する。メジャーリーグでは2番、3番に強打者が並んでいるケースも多い。初回は3番打者まで必ず打順が回ることになるため、必然的に得点する確率も高いのだ。

その強打者相手に1回を全力で投げることができる本来の中継ぎ投手を当て、封じ込める。そして、本来の先発投手は4番以降の力が落ちていく打順から登板することで、初回の失点リスクを下げるとともに、先発投手の立ち上がりの不安を和らげる効果も期待できるのだ。

イニング別得点数,ⒸSPAIA

また、先発投手は1巡目よりも2巡目、2巡目よりも3巡目と顔を合わせる機会が増えるにつれ打ち込まれる可能性が高くなる。疲労によって球威が落ちるとともに、制球も甘くなるからだ。打者の側からしても、同じ投手と対戦する機会が増えれば増えるほど投球に対する慣れが生じ、与しやすくなる。これらの要因により、投手は巡目が増えるごとに苦しい状況へと追い込まれていくのだ。

しかし、オープナーを使うことで本来の先発投手が上位打線との対戦機会を減らす、もしくは遅らせることができ、より長いイニング投げることも期待できるのだ。

PSでもA'sが使用。オープナーは今後トレンドとなるか

オープナーはポストシーズンでも使用された。アメリカン・リーグのワイルドカードゲームのヤンキース対アスレチックスの一戦。アスレチックスは先発にリアム・ヘンドリクスを起用した。

ヘンドリクスは2015年から3年連続で50試合以上に登板しており、本来は中継ぎとして起用されていた投手だったが、今シーズンは25試合登板のうち、8試合で先発。1試合は1.2回まで投げたが、残りの7試合は全て1回で降板しており、まさにオープナーとしての役割を果たしていたのだ。

そのオープナーとして起用された8試合中7試合で無失点と、まさに期待通りの結果を残していたヘンドリクスだったが、ポストシーズンの重圧なのかこの日は1回に本塁打を浴び2失点。オープナーが機能しなかったアスレチックスは、この試合なす術なく敗れてしまった。

今のところオープナーは、レイズやアスレチックスのように先発投手不足に悩む球団が積極的に採用しているにとどまり、いわゆる”奇策”の域を出ていない。

だが、メジャーリーグではセイバーメトリクス、極端なシフト、フライボール革命など、時代によって様々な戦略が生み出されてきており、オープナーも同じようにトレンドとなる可能性ももちろんある。多くの球団が成功を収めたら、日本の球団も近い将来、オープナー作戦を取り入れるかもしれない。まずは来シーズンの動向に注目したいところだ。