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大谷の「IsoP」はメジャートップクラス。日本時代よりも「進化」する長打力

2018 9/17 07:00青木スラッガー
大谷翔平1,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

日本時代よりも「進化」する大谷の長打力

大谷翔平が「打者限定」で初の週間MVPを受賞した。対象期間9月3日から9日までに出場した5試合で4本塁打を放ち、シーズン19本塁打に到達。松井秀喜、城島健司の本数を一気に抜き去り、わずか250打数ほどで日本人メジャー野手の1年目最多本塁打数を更新した。

ここにきて、日本の野球ファンの間で期待が高まっているのは、史上初となるメジャー日本人本塁打王の誕生だ。打者としてフル出場を果たせば40本塁打ペース。投手としては肘の故障で来シーズンの登板に黄信号が灯っていることもあり、開幕当初「二刀流か投手専任か」で分かれていた議論は「二刀流か打者専任か」に変わってきている。

大谷の本塁打王挑戦は、もはや決して非現実的な夢ではない。特に「長打を打つこと」において、大谷の打撃は日本時代よりも進化を遂げているからだ。

「純粋な長打力」を表す「IsoP」

長打力を示す数字として本記事では「長打率」と、これに関連する「IsoP」(Isolated power、「ISO」とも表記)というセイバーメトリクスの指標を使用する。

長打率とは塁打数を打数で割ったもの。「単打=1、二塁打=2、三塁打=3、本塁打=4(塁打)」と計算し、1打数あたりに期待できる塁打数の平均値を表す。IsoPは、そこから打率を引いたものだ。

例えばA「すべて単打の100打数40安打」と、B「すべて本塁打の100打数10安打」の打者がいたとしたら、どちらも長打率は.400。しかし、この場合AとBは同じ長打力を持つ打者とはいえないだろう。そこでISOを用いると、A「長打率.400-打率.400=0」、B「長打率.400-打率.100=.300」というように、より純粋な長打力を数値で表すことができる。

「.150程度で平均的」「.200で優秀」「.250でトップクラス」というのがIsoPによる長打力評価の目安だ。現時点で大谷は、.298という非常に高い数値をたたき出している。では、日本人最多のシーズン31本塁打を記録した松井秀喜を含め、歴代の日本人打者はどれくらいのIsoPを残していたのか。

過去の日本人打者メジャー挑戦と比べて、異常な大谷の「IsoP」

IsoP表

ⒸSPAIA

大リーグでシーズン2桁本塁打を記録したことがある打者を対象に、渡米前のNPB通算、MLB通算、MLB1年目のIsoPを表にまとめた。

これまで日本人打者は、散々「長打力の壁」にぶち当たってきた。IsoPの推移を見ると、その現実を突きつけられる。通算成績の比較で、MLBがNPBよりも高い数値だった選手は1人もおらず、松井など.100程度低くなったケースもある。メジャー1年目成績としても、NPB通算を上回ったのは青木宣親のみだ。

過去の例を見ると、IsoPは日本時代から「キープ」できれば大成功といえるだろう。そんな中、大谷は日本時代を.084も上回る数値になっている。イチローや井口資仁など、メジャー1年目の打率が日本時代と変わらない数字を残すケースは珍しくなかった。しかし長打力がこれほど大幅に向上するのは、過去のメジャー挑戦で当てはまるケースがない。

40本塁打の大台、そして日本人初の本塁打王へ

大谷はメジャー挑戦で初めて、「長打力の壁」にぶち当たらなかった日本人打者といえるだろう。

既にメジャー全体でも、大谷の長打力はトップクラスだ。IsoPは両リーグ本塁打トップ3のクリス・デービス(アスレチックス)、J.D・マルティネス(レッドソックス)、ホセ・ラミレス(インディアンス)とほぼ変わらない。フルで出場している打者の半分ほどの打席数となるため、あくまで参考程度の比較だが、両リーグ規定到達打者の中で大谷の長打力.589は4位、OPS.960は5位相当の数値となる。

投手としての調整に多大な時間を費やす中、1年目からこのレベルまで成長してしまうのは、はっきり言って信じがたい。松井でも届かなった40本塁打の大台、そして日本人初の本塁打王へ……。

今回、非常に難しい決断となった肘の故障。当面は打者専念となった大谷に、世間からは大きな期待の目が向けられるだろう。