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Dバックス平野佳寿と「謎の鳴き声」 ファンの心を掴んだ意外な理由

2018 7/18 07:00青木スラッガー
平野佳寿,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

平野の奪三振時に流れる声は

25試合連続無失点の球団記録を更新するなど、メジャー1年目からセットアッパーとしてチームに大きく貢献しているダイヤモンドバックスの平野佳寿。丸2か月間一度も失点しなかったのだから、首脳陣からの信頼も絶大だ。アリゾナのファンからの人気も高い平野だが、実は入団当初から少し意外な形で愛されている。

ダイヤモンドバックスの本拠地・チェイスフィールドは乾燥した気候により、メジャー屈指の「打者天国」で知られる球場だ。そんな環境でも落差の大きいスプリットで強打者を仕留める平野だが、この球場で平野が三振を奪ったとき、甲高い動物の鳴き声のような短い効果音が流れているのにお気づきだろうか。

大リーグの球場では、ヤンキースタジアムの口笛のような音や、ドジャーススタジアムのベートーヴェン『運命』など、奪三振時の効果音はよくある演出だ。田中将大や前田健太ら歴代の日本人投手の活躍で聞いたことがある方は多いだろう。これらは田中や前田に限らず、投手が三振を奪ったときに流れる音はチーム全員共通のものだ。しかし平野の奪三振時に限って「謎の鳴き声」が聞こえる。

よく注意して聞いてみると、鳴き声は「ヨッシー!」と言っているように思える。実は、任天堂「スーパーマリオシリーズ」に登場する、緑色の恐竜のような見た目のキャラクター「ヨッシー」が、この鳴き声の主。平野は、ファンだけでなく球団公認で「ヨッシー」として愛されているのである。

動画55秒あたりから(MLB JAPAN公式Twitter)

25試合連続無失点の球団記録更新を祝う動画にもヨッシーの鳴き声が使用されていた。

(Arizona Diamondbacks公式Twitter)

事の発端は「Please call me Yoshi(ヨシと呼んでください)」

平野の「ヨッシーキャラ」定着は、初めて公の場でダイヤモンドバックスのユニフォームに袖を通したその時からのことだ。2月のキャンプイン直前に行われた入団会見の冒頭で平野が話した、なんてことのない英語の自己紹介が事の発端だった。

「Hello」と挨拶を切り出した平野は、まず自身のフルネームを述べ、続けて「Please call me Yoshi(ヨシと呼んでください)」とフランクな呼び名も紹介する。この「Yoshi」に、ダイヤモンドバックスファンが反応した。実は、海外版マリオシリーズでヨッシーの英語表記は「Yoshi」なのである。

平野が生まれた次の年、1985年に第一作をリリースしたマリオシリーズは、日本だけでなくアメリカをはじめ世界中で愛されているゲーム作品だ。そのことは、少し前まで任天堂がマリナーズの筆頭オーナーだったことや、リオ五輪の閉会式で安倍晋三首相がマリオ姿で登場する演出があったことからもよくわかる。ヨッシーもメインで扱う作品が何本も出ているマリオシリーズ屈指の人気キャラクター。アメリカでも「Yoshi」といえば、多くの人がヨッシーのことを連想するようだ。

入団会見直後、ダイヤモンドバックスの公式Twitterアカウントが平野の自己紹介文章を顔写真と一緒にアップすると、ファンからヨッシーの画像で平野を歓迎するリプライが殺到する事態となった。その後も平野に関するツイートがあると、ことあるごとにファンからヨッシー関連のリプライが集まるのがお約束となっている。

同アカウントもシーズン開幕後、平野が活躍し始めると、リリーフカーにヨッシーが乗っているコラージュ画像をツイートしたこがある。

(Arizona Diamondbacks公式Twitter)

思わぬ形だったが……ファンに歓迎されるのは良いこと

これまでも大リーグの日本人選手はアメリカの野球ファンから様々なニックネームをつけられてきた。代表的なのはバットを魔法の杖のごとく操るイチローの「Wizard」(魔法使い)だろう。他に野茂英雄「The Tornado」、松坂大輔「Dice-K」などがあり、ゴジラ松井秀喜はアメリカでも「Godzilla」だった。

平野の「Yoshi」はこういった“かっこいい感じ”のニックネームと比べるとやや異質である。なにしろ、ヨッシーは愛らしい見た目が人気のかわいいキャラクター。京都出身の平野なら、関西弁で「もっと“シュッとした感じ”のがよかったんやけど……」と内心ぼやいていそうだ。

だが、入団会見の一言をきっかけにプレーを見せる前からファンの心を掴むことができたというのは、右も左もわからない異国の地に乗り込む平野にとってありがたいことだっただろう。思わぬ形で定着した「ヨッシーキャラ」も、球団記録更新の大活躍に多少なりとも寄与していたのかもしれない。

ちなみにテレビゲーム「ヨッシーアイランド」でヨッシーは恐竜とは思えない華麗なフォームから、卵をボールに見立てた豪速球で敵キャラを仕留めていく(野球では死球)。現実のヨッシーも本家に負けない投球で、MLBの強敵たちから、さらなる三振を奪って欲しい。