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創志学園・西は「強気」かつ「繊細」。16奪三振完封デビューを生んだ投球術

2018 8/28 15:00青木スラッガー
ピッチャー,ⒸShutterstock.com
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続出した「スーパー2年生」で一際スペシャルな創志学園・西純矢

史上初2度目の春夏連覇を成し遂げながらも、翌日からは新チームでの練習をスタートさせたという大阪桐蔭。来年の夏へ向けた戦いは、既に始まっている。101回目の夏に3年生になるのは2001年生まれの世代だ。今年の甲子園は、そんな彼ら「スーパー2年生」が存在感を放つ大会となった。

奥川恭伸(星稜)と井上広輝(日大三)が150キロを計測し、広沢優(日大三)と根本太一(木更津総合)も140キロ後半と勢いのあるボールを投げた。甲子園での最速は145キロだったが、最速152キロ左腕の及川雅貴(横浜)も大器の片りんを見せた。

そんな中で、「2019年のドラフト1位指名間違いなし」とまで言われるようになったのが、岡山の最速150キロ右腕・西純矢(創志学園)だ。初戦、神宮準優勝の創成館相手に16奪三振無四球完封の衝撃デビュー。来年のドラフトに向けて、現時点では一歩抜きんでたと言っていいただろう。

16奪三振完封のデビュー戦、創成館は「インコース潰し」の西対策をしていた

創成館戦、西は最速149キロのストレートと切れ味抜群のスライダーを武器に、秋は大阪桐蔭にも打ち勝った強力打線をねじ伏せる投球を見せた。だが、西の本当のすごさは剛速球でも変化球のキレでもなく、実は「繊細」な投球術にあるのだ。

注目したいのは対左打者への投球だ。奪った16三振のうち7個は、左打者からのもの。映像から判断する限り、左右別での奪三振(決め球)の内訳は以下の通り。右打者にはスライダー中心にアウトコース、左打者にはストレートも織り交ぜてインコースと勝負球はコースを徹底している。


【対右打者9奪三振】

  • アウトコースのスライダー:7個(ワンバウンド3球)
  • アウトコースのストレート:2個

【対左打者7奪三振】

  • インコースのスライダー:3個
  • インコースのストレート:2個
  • 真ん中高めのストレート:1個
  • アウトコースのスライダー:1個(ワンバウンド)

高校野球ではこういう投球をする右のスライダー投手に対し、左打者がホームベース寄りギリギリに立って、死球覚悟で「インコースを潰す」対策がよく取られる。右投手のスライダーは左打者の方に曲がっていくため、ベース寄りに立たれてしまうと、死球のリスクからインコースが投げにくくなってしまうのだ。

創成館打線も投手の川原陸を除いて、左打者全体でこの「インコース潰し」を意識した立ち方を行っているように見えたが、西はそれをものともしなかった。

インコースへの「強気」かつ「繊細」な投球術

各左打者の対策により、インコースはベースからボール2個も外れると死球の可能性がある。それでも西は、左打者に対してインコースギリギリを攻め続けた。ベースの角からボール1個分の出し入れを、ひとつの死球も出さず試合を通じてやってのけたのである。

左打者インコースへの攻め方が凄まじかった創成館戦。打者としてベースに覆いかぶさるように構えている以上、インコースいっぱいに決められると、まともなスイングはできない。それが16奪三振という結果につながったのだ。

相手左打者は、踏み込んだスパイクの半分くらいがラインからはみ出てしまうほど、西の「インコース潰し」を徹底していた。もし空振りしていれば、あばらに直撃していたと考えられるファールもあった。これだけベース寄りに立たれたら、プロの投手でもインコースにスライダーを多投するのは難しいだろう。左打者の懐へ全力で腕を振って投げ込み、更にボール1個分の出し入れをする「強気」かつ「繊細」な投球術。ここが他のスーパー2年生たちよりも長けている点だ。

初の甲子園、短い登板間隔など様々な原因が重なるなか、西は初戦で完璧な投球を見せた。しかし、2回戦の下野関国際戦では初回から制球に苦しみ、中盤から調子を取り戻すも9回で再び乱れ、下関国際に逆転を許してしまった。

多くの課題を発見しただろう今大会、来年に期待する声も多い。敗戦で学んだことを糧に、今以上に投球術を磨き、次回は3年生として101回目の大会に挑戦してほしい。