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甲子園を春夏連覇した7校を振り返る【横浜高校】

2017 8/3 12:07Mimu
野球ボール
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平成の怪物・松阪大輔を擁し春夏連覇を達成した横浜高校

春夏連覇を達成した高校の中でひときわ鮮烈な印象を残したのは、98年の横浜高校だ。このあたりになると、まだ頭の中に鮮明に映像が残っているという方も多いのではないだろうか。
平成の怪物・松坂大輔選手(現福岡ソフトバンクホークス)を筆頭に、正捕手には小山良男選手(元中日ドラゴンズ)、センターには小池正晃さん(現DeNAベイスターズで2軍コーチ)、内野には後藤武敏選手(DeNAベイスターズ)らが在籍しており、高いレベルでバランスの良いチームであった。
特に3年生時の松阪選手には、鬼気迫るものがあった。2年生の時から背番号1をつけていたが、夏の大会では自身の暴投でサヨナラ負けを喫しており、先輩たちの夏を終わらせてしまった。しかし、それ以降はエースとしての自覚が目覚めたのか、秋季大会では相手を全く寄せ付けないピッチングを見せて優勝。文句なしで選抜に選出された。
そして、春の選抜でも見事なピッチングを見せる。強豪の報徳学園(兵庫)を6-2で下すと、当時2年だった田中賢介選手(現日本ハムファイターズ)が1番、村田修一選手(現読売ジャイアンツ)がエースで3番を努めていた東福岡高校を3-0とシャットダウン。この四肢では松坂選手自身も先制タイムリーを放ち、投打に調子のいいところを見せる。続く郡山(奈良)も4-0で破り危なげなく準決勝へと進出し、いよいよ準決勝のPL学園(大阪)戦を迎えた。

春の選抜でも春の選抜でもPL学園との死闘を繰り広げる

当時のPL学園では右の上重聡選手(現日本テレビアナウンサー)がエースを務めていたほか、左の稲田学選手も好投手。左右の2枚看板でここまでを勝ち上がってきた。野手には大西宏明選手(元オリックスバファローズなど)や平石洋介選手(元東北楽天ゴールデンイーグルス)、1学年下には田中一徳選手(元横浜ベイスターズ)など、横浜に負けず劣らずの充実した戦力がそろっていたチームだ。
この試合ではPL学園が先に主導権を握る。6回にPLの4番・古畑一彦選手のタイムリーで2点を先制。さらに横浜打線も相手先発の稲田選手を打ち崩すことができず、7回まで無得点で試合が進んでいく。しかし0-2で迎えた8回の表、稲田選手から何とか無死2塁のチャンスを作ると、さらに変わった上重選手から四球と送りバントで1死2・3塁を作り出すことに成功。ここで打席には松阪選手に。

PLの守備にミスを突いて横浜高校が逆転勝利

松阪選手の4打球目は3塁線への強いゴロだった。サードがこれをうまく捕球しホームへと送球したが、キャッチャーとランナーが重なってしまう。この送球がランナーの背中に当たってしまい、ボールは1塁ベンチの方へ転がっていってしまった。これにはカバーも間に合わず、2塁ランナーまで帰って2-2と意外な形で同点に追いつくことに成功した。
そして9回の横浜の攻撃は流れもよく、ノーアウトからランナーを出し続く打者は送りバントの構え。しかし1塁ランナーのリードが大きく、キャッチャーがすかさず牽制。ランナーは反応できずアウトかと思われたが、なんと牽制球がそれてしまいランナーは2塁へ。さらに送りバントが内野安打になり、無死1・3塁の大チャンスが訪れる。
ここで1番の加藤重之選手はスクイズし、打球は小フライとなりスクイズ失敗かと思われた。ところが、これが上手くピッチャーとセカンドの間にぽとりと落ち、3-2と勝ち越した。これが決勝点となり見事横浜が接戦をものにした。PL学園は守備のミスがことごとく点につながってしまい、横浜はそこを見逃さずに一気に畳みかけたのだ。
続く決勝戦では、久保康友選手(現横浜DeNAベイスターズ)を擁する関東一高に3-0という危なげない試合運びを見せ、見事に春の大会を制覇する。

未だ伝説として語り継がれる夏の大会のPL学園戦

やはり皆さんの記憶により深く刻まれているのは、1998年夏の大会のPL学園戦だろう。この夏は大分の柳ヶ浦高校、鹿児島実業(現読売ジャイアンツの杉内俊哉選手が在籍)、そして石川の星陵高校を破り、準々決勝へと進出し再びPL高校と相まみえる。
試合は2回の裏に早くも動いた。PLが大西選手のヒットと守備のミスから無死1・2塁のチャンスを作ると、犠牲フライに2本のタイムリーが飛び出して3点を先制。実はPLは横浜のキャッチャー・小山選手の動きから配球を読んでおり、それをかけ声でバッターに伝え狙い球を絞っていたのだ。
しかし横浜はこれを冷静に対処し、その後も4回と7回に1点ずつを追加されるも決して大崩れはしなかった。一方で横浜打撃陣も、なんとか稲田選手から得点を重ねる。4回表に5番の小山選手のツーランで反撃を開始すると、5回には9番・松本勉選手のタイムリーで2点を追加し同点。
7回に1点を勝ち越された後も、8回に再び小山選手のタイムリーを放ち、この試合2度目の同点に追いついた。結局5-5のまま9回の裏も終了し、延長戦へと突入する。

延長17回、3時間37分の死闘

延長戦、先に得点を奪ったのは横浜高校だった。11回の表に松坂選手がヒットを放ち送りバントで2塁へ進めると、途中からレフトに入っていた柴武志選手がタイムリーで、この試合で初めて横浜がリードを奪う。しかしPLもその裏ですかさず大西選手のタイムリーで同点となり、両者一歩も譲らない状況だ。
次に試合が動いたのは16回表だった。今度は小池選手の内野安打などで満塁のチャンスを作ると、2番・加藤選手がショートゴロで1点を追加する。PLは11回に同点に追いつき、以降は松坂選手の前に12~15イニングまで4イニング連続の3者凡退。
流れは完全に横浜かと思われたが、先頭の田中一徳選手が内野安打で出塁すると、先ほどの横浜と同様にショートゴロで1点を取り同点となった。すでに3時間を越えようかという試合時間だったが、PL学園の集中力は本当に見事だった。
17回表に横浜高校の攻撃で簡単に2死を取られるも、柴選手がエラーで出塁し常盤亮太選手へと打席が回る。その初球、振り抜いた打球はきれいな放物線を描き、ライトスタンドへ飛び勝ち越しのツーランホームランとなった。あまりにも美しく見事な1発で、横浜高校が3度目のリードを奪う。
そしてその裏のPL学園の攻撃で先頭の大西選手をショートゴロに打ち取ると、続く6番・三垣勝己選手をライトフライ。そして田中雅彦選手を見逃しの三振に打ち取り、ゲームセット。17イニングで250球。3時間37分の死闘は、横浜高校に軍配が上がった。

苦しい展開はさらに続く、高知の名門校との激突

続く相手は高知の名門・明徳義塾高校だ。しかも試合日はPL学園戦の翌日だったため松坂選手はとても投げられる状態ではなく、2年生の袴塚健次選手に先発マウンドを託した。序盤はなんとか0点でしのぐも4回の表に先制され0-1に。さらに5回表にも集中打を浴び、同じく2年生の斉藤弘樹選手がマウンドにあがったが、勢いを止めきることができず合計で3点を追加されて0-4。
その後も追加点を取られ、打線も明徳義塾の左腕エース・寺本四郎選手(元千葉ロッテマリーンズ)から得点を奪えない。8回表終了時で6点のビハインドという状況となり、横浜高校の夏もここまでかと思われた。
だが8回の裏、打線が寺本選手をようやく捉え始める。エラーからチャンスをつかむと、後藤選手と松坂選手のタイムリーで2点を返す。そして、ピッチャーは技巧派の高橋一正選手(元ヤクルトスワローズ)に交代するも、まだまだ横浜打線は止まらず、高橋選手からもタイムリーを放ち2点を追加したのだ。これでなんとか4-6と2点差まで迫ることができた。
この勢いを大事にしたい横浜は9回から松坂選手が登板し、見事に3者凡退に切ってとりその裏の攻撃に望みをつなぐ。

2日連続の劇的な勝利

9回裏、またも高橋選手を攻め立て無死満塁の大チャンスを作る。ここで後藤選手が詰まりながらもセンター前に運び、ついに6-6の同点に追いついた。さらにバントと敬遠で再び満塁のチャンスを作ると、打席にはPL戦で決勝ホームランを打った常盤良太さん。明徳は再び寺本選手をマウンドに戻す。
スタンドの全員が前日のミラクルを期待する中、カウント1ボール2ストライクからの4球目。スライダーが外いっぱいに決まり見逃し三振で、場内はため息に包まれてしまった。しかし、続くは柴選手。この選手もPL学園戦勝利の立役者だ。柴選手が降りぬいた2打球目は、詰まりながらもセカンドの後方へのフライ。セカンドが必死に飛びつくもこれを捕球できず、これでサヨナラ勝ちとなった。絶体絶命の状況から見事な逆転勝利となったのだ。
続く決勝の京都成章戦は松本選手のホームランで先制すると、その後も見方の好守などもあって見事にノーヒットノーランを達成し春夏連覇を達成した。連続で劇的な展開となった3試合。この夏の大会の主人公は彼ら以外に考えられないだろう。