偉大な先輩も成し遂げられなかった偉業を達成
シリーズで紹介してきた春夏連覇達成校。4校目に紹介するのは1987年のPL学園だ。この年のメンバーといえば、後にプロ入りした選手が5人、しかもそのほとんどがプロの世界でも何かしらのタイトルに縁のある選手たちばかりという、まさに黄金世代である。
立浪和義、片岡篤史、野村弘樹、橋本清、そして1学年下の宮本慎也。名球会入りした選手も2人いる。彼らの世代でPL学園の偉大な先輩であるKK世代ですらも成し遂げられなかった春夏連覇を達成した。
だがその道のりは決して平坦ではなかった。KK世代が引退した翌年の86年、PL学園は春の選抜に出場するも、浜松商(静岡)に1-8の完敗。夏は大阪大会で敗れ、甲子園出場は泉州(現近畿大学附属泉州)だった。
KK世代がいた83年から85年は5季連続甲子園出場、さらに優勝2回、準優勝2回という輝かしい実績を残したが、後輩たちにはプレッシャーだったのか、次の世代の夏はあっさりと終わってしまう。チームに重い空気が立ちこめる中、新チームのキャプテンに立浪が就任。やるしかないという気持ちのもと、大会に臨んだ。
3本柱の強さが発揮された春の大会
やや重い雰囲気の中で始動した新チームであったが、秋の近畿大会ではベスト4に入り、なんとか選抜への切符を確保する。そして迎えた甲子園、前年の1回戦負けの悪夢が頭をよぎった選手たちもいたが、西日本短大附属(福岡)を、野村-橋本のリレーで下す。
当時のPLには左の野村・右の橋本の他に、岩崎充宏という右投手がいて、3本柱が非常に強力だった。自分たちの実力が発揮できれば甲子園でも十分に戦える。その自信が選手たちにもついてきたのか、2回戦の広島商も野村-岩崎のリレーで完封勝利、打線も調子が良く、終わってみれば8-0の圧勝だった。
帝京との死闘も最後は投手力の差で勝利
続く帝京(東京)戦では、後に日本ハムへと入団する芝草宇宙と対戦。この大会では前年の近畿大会優勝校である京都西を完封しており、一躍注目を集めた投手だ。
試合は大方の予想通り、投手戦となる。PL学園は何とか2点を取るものの、なかなか攻めきれず、流れをつかむことができない。一方で投手陣は奮起し、8回までを1失点。そして2-1とリードしたまま、9回の表を迎える。
ここで橋本が帝京の大井剛にタイムリーを打たれ、同点とされてしまう。ここにきて芝草を攻めきれなかったのが痛手となってしまった。しかし、PL投手陣もこれ以上の失点は許さない。延長10回、11回には岩崎が登板し、きっちりと帝京打線を0点に抑える。
そして延長11回裏、疲れの見えてきた芝草から立浪、岩崎がヒットを放ち、1死1、3塁のチャンスを作ると、6番・長谷川将樹がライト前にタイムリーを放ち、サヨナラ勝ち。芝草1枚の帝京に対し、3本柱で戦ってきたPL学園の層の厚さがものを言い、接戦をものにした。
圧倒的な戦力と冴えわたった監督の采配で春を制覇
準決勝の東海大甲府(山梨)戦でも、延長14回を3人で投げ抜いた。特に野村が初回に2点、3回にも3点を失う苦しい展開であったが、6回には相手の守備のミスに乗じて一気に点を返し、5-5の同点に追い打つく。
こうなればもうPL学園のものだ。3回からは橋本が7イニングのロングリリーフを完璧にこなすと、10回からは岩崎が登板。同じく相手を無失点に抑えていく、
そして延長14回、満塁のチャンスを作ると、バッターボックスに帝京戦でサヨナラヒットを放った6番・長谷川。球場全体が帝京戦の再現を期待する中、長谷川は見事その期待に応え、走者一掃のタイムリーを放ち、一挙に3点を奪う。そしてその裏も岩崎が締め、8-5で勝利を収めた。
こういった継投での戦い方は、現代の野球にも通ずるものがあるのではないだろうか。ある意味、当時のPL学園は時代を先取りしていたのかもしれない。
続く決勝戦では、関東一を圧倒し、春の頂点に立つ。この試合では初回に4番の深瀬猛のタイムリーで先制すると、そのまま野村-橋本のリレーで9回を1失点。7回には先制タイムリーを放った4番の深瀬、さらに5番の橋本が連続でスクイズを決めるなど、小技で得点を奪うシーンも見られた。スキのない攻めでセンバツを制した。
投打にわたって相手を圧倒した夏
選抜優勝で自信をつけたPLナインは、夏の大阪大会でも桜宮や近大附属といった並み居る強豪を倒し、甲子園出場を決める。
1回戦は群馬の中央、2回戦は九州学院をお得意の野村-橋本のリレーでそれぞれ7-2で破ると、3回戦の高岡商戦では、野村弘樹が完封勝利。さらに準々決勝の習志野戦では、橋本清が負けじと1失点完投勝利。チームメイトでありライバルでもある2人の投手の好投によってますますチームは勢いづいた。
そして準決勝、相手は春の選抜で苦しめられた帝京。さらにエースの芝草は、2回戦の東北戦でノーヒットノーランを達成しており、それを含めてここまで3試合すべて完封勝利。おそらく春夏を通じて最も警戒すべき相手だっただろう。
しかし、いざ試合が始まると、序盤からPL打線が爆発。初回から立浪がツーランホームラン、さらに2回にも立浪が満塁からタイムリーヒットを放つと、それに4番の片岡も続き、3点を追加。あっという間に大会No.1投手を打ち崩した。その後も追加点を取り、12-5と大勝。決勝へと駒を進める。
完璧な内容で先輩たちも成しえなかった春夏連覇達成
決勝の常総学院戦。名将として知られる木内幸男監督が率いる強豪だ。しかし、序盤に常総学院は守備の乱れを見せると、好調のPL打線がそれにつけ込む。1回、2回に1点ずつ得点し、その後も着実に加点。投げては野村-岩崎のリレーで常総打線を封じ込め、7-2と完璧な試合運びで勝利した。
実はサードのレギュラー深瀬が肩を亜脱臼しており、この試合は宮本が8番サードで出場したが、終わってみれば圧倒的な層の厚さを見せつけての優勝だった。