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東芝・岡野祐一郎「このチームで勝ちたい」 “規格外の投手”と社会人野球の頂点目指す 

2019 5/26 07:00永田遼太郎
東芝野球部の岡野祐一郎ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

社会人野球3年目、岡野祐一郎

改めて評価を見直した関係者も多かったのではないだろうか。

社会人野球・東芝の岡野祐一郎。

2019年最初の公式戦となったJABA東京スポニチ大会で、2試合連続完封を飾った社会人野球屈指の右腕は、‶ドラフト漏れ″をした昨秋の悔しさを晴らすかのように、マウンドで圧倒的な存在感を示した。

「今年最初の大会だったので自分としてもチームとしても良いスタートを切りたいと思っていましたし、その中で個人では2試合連続完封、チームとしても準優勝出来たということは、まずまずのスタートが切れたんじゃないかなって思います」

淡々とした自身の振り返りに、マウンドからポーカーフェイスでボールを投げ込む彼の姿が被った。

「大人の投球」
「奥行きも幅も上手く使える」
「抜群の制球力」
「俯瞰的に自分が見られる」
「試合で決して崩れない」

今や社会人野球屈指の右腕に成長した彼に対し、メディアを始めとする‶見る側″の人間はありとあらゆる言葉で称賛する。

だからこそ昨秋のプロ野球ドラフト会議では「即戦力!上位指名は間違いない」と、彼を見てきた多くの者達が感じていたし、次のステージで躍動する彼の姿も想像した。

しかし、まさかの「指名漏れ」。

一体、彼の何が足りなかったというのだろうか?

岡野が言う。
「『まとまっている』だけでは昨年と同じ結果になるなと自分でも思いました。なので今年は‶圧倒″をテーマに持って、冬場から取り組んできたんです」

計算が出来るだけでは物足りない。ならば、どこかが突出した規格外の存在になっていこう。社会人野球3年目、岡野祐一郎の新たな挑戦が始まった。

真っ直ぐで勝負できる投手に

このオフに、彼が取り組んだこと。それはピッチャーの原点ともいえる直球の質の向上だった。

「やっぱりストレートを、もう一回見直そうと考えました。昨年は一年間投げていく中で、(シーズン)終盤は球速もどんどん落ちてきてしまったり、真っ直ぐで勝負出来なかったりした試合がありました。

そこで変化球でかわしたり、試合をまとめたりという点は出来たんですけど、プロを目指してやって来た中で『足りない自分』というのがどこかにあったと思うんです。そこで、一度、コーチや監督と話してみて、その結果、やっぱりストレートが足りないんじゃないか、もう一度真っ直ぐを強化して(今年は)真っ直ぐで勝負できるピッチャーを目指してみようとなって、この冬は取り組んできました」

以前から取り組んで来たウエイトトレーニングも、今年は例年以上の質と量を自分に課した。

「ウエイトの数値もそうですし、他の人からも『体が大きくなった』と言われます。そうした見た目の部分でも成果は出ていますし、球速も150キロは出ていないですけど、この春は真っ直ぐで勝負出来たと実感があるので、それは昨年よりも良くなった部分だと思います」

連続完封を飾ったスポニチ大会、特にプロ注目の左腕・河野竜生と投げ合った3月11日のJFE西日本戦での配球に、その傾向がくっきりと出た。

全136球中、6割を超える球で彼はストレートを選択。

中でも印象的だったのは1対0、1点リードで迎えた4回裏の投球で、先頭の脇屋直征に初球のストレートを右中間に二塁打されたが、それでも怯むことなく7番の友滝健弘、8番の斉藤輝、9番の浦翔太郎に対して、あえてのストレート勝負。実にこのイニングで投げた11球中10球でストレートを選択し、無失点で切り抜けた。

「圧倒する」

それこそが岡野祐一郎が自身に求めた今年のテーマ。それを1年最初のゲームでしっかり形で示したのだ。

「(昨年の後半は)真っ直ぐを普通にヒットされていたのと、2ストライクに追い込んでから真っ直ぐを勝負球にするのが出来ないでいたと思うんです。そうなると相手打者も(球種が)絞りやすくなってくると思うんです。

やっぱり変化球で空振りを取ったり、タイミングを外したりというのは、(世間で)『良い』と言われているピッチャーがみんな出来ることだと思うんです。だから改めて真っ直ぐで勝負出来るピッチャーを今年は目指そうと思っているんです」

東芝は凄く温かい

今季、岡野と共に東芝の「二枚看板」を張る宮川哲からも良い影響を受けている。

宮川は150キロを超える速球を中心にした、どちらかといえばパワー型のピッチャーだ。制球やボールのキレ、さらに技で勝負する岡野とは対照的なほどにタイプが違う。

「(宮川は)いいピッチャーです。プロでも上位でかかるんじゃないかと言われているピッチャーなので、同じチームにいるのは自分も凄く勉強になりますし、自分が持っていないものを宮川は持っていると思っています。

そこは素直に感謝したいです。普段は自分とキャッチボールとかも一緒にしているんですけど、その中で色々と聞いたり、自分が先輩ですけど色んな部分でアドバイスをもらったりもしています。切磋琢磨じゃないですけど、自分が吸収出来ているものがかなり多いのでとても有難い存在だと思っています」

指名漏れした昨年のプロ野球ドラフト会議の翌日、岡野はすぐに次なる目標に向けて歩を進めた。

正直なところ気落ちする部分もあったが、そんなときチームメイトやスタッフ達が次から次へと岡野にこう声をかけた。

「次、行けばいいよ」
「これで来年も一緒にやれるし、次こそ見返そうよ」

その言葉が深く、温かく、心に沁みた。

「そのとき(東芝は)凄く温かいチームだなって感じたんです。その人達のためにも今年は絶対負けるわけにはいかないと思いましたし、自分が投げる試合は絶対勝つんだって逆に気合いも入りました。今年はこのチームで勝ちたいです」

味方のミスも帳消しにできる投球を

今年も社会人野球、夏の頂点を決める都市対抗野球の時期がやって来た。

東芝は西関東予選ブロック決定トーナメントからスタートし、5月20日のJFAM EMANON戦を11対0で勝利。幸先が良いスタートを切った。

だが、本当の戦いはこれから。27日からは三菱日立パワーシステムズ、JX-ENEOSと三つ巴で争う代表決定リーグ戦が待っている。

岡野が言う。

「たしかにプレッシャーがかかる試合です。(予選は)独特な空気が流れているなと、ここ2年戦ってみて感じていますし、昨年も(三菱日立パワーシステムズに)10安打くらい打たれて、なんとか2点に抑えて勝てた試合というのがありました。そうした中で味方のミスもあるでしょうし、それをカバー出来るピッチャーが本当の意味で『試合で勝てるピッチャー』なんだと感じています。試合で大切なのはお互いにカバーし合える関係。今年も投げる機会があったら、味方のミスも自分がカバー出来るような投球を目指したいと思っています」

堂々と、圧倒的な存在感でそびえ立つ大黒柱がそこにいた。